今日は朝から随分と寒い日だった。マフラーを巻いても手袋をしても全くもって防寒対策にはならず、外に出ることがなかなかどうしてつらい。けれど、そんな日でもボーダーには防衛任務があるわけで。いつなんどき、近界民が攻めてくるか分からない。寒かろうが暑かろうが近界民にとっては関係ないのだ。心底羨ましいと思う。わたしも暑いだの寒いだの感じないような身体になりたい。そうしたらきっと任務だってもっと楽なのに。
そんなわたしのイライラが伝わったのか、今日は近界民はほとんど出てくることはなかった。足早に本部に戻ってコーヒーを入れ、喫煙室に入る。林藤さんだったり諏訪だったり、ボーダー内では時代の流れに逆らってどこでもスパスパ煙草を吸うことができる。けれど一応喫煙室も存在するのだ。だからわたしは、煙草が吸いたいときはいつもここで吸っている。最近の若い子たちは煙草を嫌がることが多いから。わたしも十分若いけれど。
ポケットの中からライターと煙草を出す。どちらも中身はもうほとんどない。コンビニに行かなきゃ、なんて思いながら火を付けると、誰かが喫煙室に入ってきた。

「やっぱりここか」
「諏訪が喫煙室に来るなんて珍しいね」

くわえ煙草をしながら入ってきたのは諏訪だった。どうしたの、と聞けば別に、と返される。不意に諏訪がわたしの手元を見て、嫌そうな顔をした。

「またメンソール吸ってんのかよ。不味ぃだろ、それ」
「そんなことないって。スースーして美味しいよ。一本どう?」
「やめとく」

諏訪は備え付けの灰皿にグリグリと煙草を押し付けて、ポケットから煙草を取り出した。さっきわたしが使ったライターを差し出すと、彼は少し嬉しそうだった。

「ねぇ、さっきから思ってたんだけど、なんでそれ飲まないの?」

それ、とは諏訪が喫煙室に入ってくるときに持ってきた紙コップの飲み物のことだった。蓋がされているため、中になにが入っているのかは分からない。なんだっていいだろ。彼はわたしの質問に曖昧に答えた。

「飲まないならちょうだい。わたしこれここ来る前にほとんど飲んじゃって、もうないの」

とっくに空になった紙コップを振れば、ほらよ、と諏訪は紙コップを渡してくれた。紙越しに温かさが伝わってぬくい。

「ありがと」
「おー」

短くなった煙草を灰皿に押し付けて、それを飲む。…中身はココアだった。
諏訪はココアなんて滅多に飲まない。絶対に飲まないわけではないから、気まぐれで今日たまたま飲もうとしてたのかもしれない。だけど、喫煙室に入ってきたときの言葉や、すんなりこれを渡してくれたことが頭から離れない。もしかしたら、わたしのために淹れてきてくれたのかもしれない。

「ほんとに、ありがと」
「………おう」


151028



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