煙草を吸い始めたのはいつからだろう。こちらの世界に来るときに持ってきた煙草を吸いながら、私はそんなことを考えていた。二十歳の誕生日のときには、もうすでに吸っていたような気がする。それ以前からずっと吸っていたと思うのだけど、頭の中にモヤがかかってはっきりと思い出すことができない。そのくらい、私は前々から煙草を手放すことができなくて、ずっと肌身離さず側に置いていた。
いつものように本丸の縁側で煙草を吸っていたときのことだった。不意に何がが後ろで動く気配がして、なんとはなしに振り返ってみれば、そこにいたのは吉行だった。

「どうかしたの?」

そう話しかけてやれば、彼は少し決まりが悪そうにしながら口を開いた。

「煙草を吸っちょったがから、話しかけていいか迷っとったぜよ」
「そんなの気にしなくていいのに」
「ねき、座ってもいいかの?」
「もちろん」

私が頷くと、吉行は嬉しそうにしながら私の隣に腰をかける。そこからは二人して何も話すことはなく、ただただ縁側を見つめる時間が続いた。そよ風が私の頬を撫でて、吉行の髪を揺らす。私の煙草の煙が空へと上る。ゆっくりとした時間が流れて、このまま誰も攻めて来ない平和な時間が続けばいいと感じた。

「龍馬も煙草を吸っちょったがんだ」

小さい声だった。ポツリと吉行が呟いた。彼の方を見れば、僅かに険しい表情をして私の手元を見つめていた。

「酒の方が好きじゃったけど」
「……そう」

吉行はいま何を考えているのだろう。その表情を見れば辛いことなのは明白だ。けれど彼の胸中を完全に把握することはできない。だから少しでもその辛さが和らげばいいと、私はすぐ近くにある吉行の手を、自分の手で包み込んだ。

「ぬくいのぉ」

私の温かさが、彼に伝わりますように。


150914 酸性



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