「迅、久しぶりだね」
ボーダーの本部で、見覚えのある後ろ姿に声をかけた。私の声に足を止めた彼は、ゆっくりとこちらに振り向く。懐かしい顔に安心して私は思わず、ほぅ、と息を吐いた。
迅を見たのは久しぶりだった。最後に会ったのはいつだったか、とふと考える。私がここからいなくなったのが二年前だから、そのくらい会っていないのか。そりゃあ容姿も変わるよね、と思わずまじまじと迅を見つめてしまう。変わっているところもあるけれど、変わらないところもある。
「ああ、久しぶり。っていっても俺は見えてたけど」
そう言って迅はニヤリと笑った。未来を見ることができる彼のサイドエフェクトだ。そんなすごいものが、私と久しぶりに会うなんていうしょうもない未来まで見えるなんて驚きだ。不意に視線を彼の手に落とす。そこには当たり前のようにぼんち揚げが存在していて、そんなところにすら懐かしさを感じた。
「まだぼんち揚げ食べてるの?」
「美味いからな」
「食べ過ぎはよくないと思うよ」
私の嗜めるような言葉に迅は苦笑する。あ、笑い方も変わってないな、なんて。そんな取り止めの無いことまで気になってしまうし思い出してしまう。それが迅の魅力だった。私はそんな彼にいつも目を奪われていだのだ。
「それはそうと、身体はもういいのか?」
「うん、もう平気」
私は二年前からこの街を離れて療養していた。ちょっとした病気を患ってしまったのだ。当初の予定では、半年ほどで復帰する予定だったが、思いのほか長引いてしまった。お陰で、久しぶりに戻ってみれば知らない人は増えているし、基地内も様変わりしていて戸惑ってしまう。
「お前、ボーダー辞めたほうがいいよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「ちょっと。戻ってきて早々、そういうのやめてよ」
「じゃあ、辞めなくていいからもう少し休暇もらっとけ」
「一体なに?」
あまりにも強引な迅に、私は疑問を投げかける。彼は少し険しい顔をしたあと、私の目を見据えて言った。
「もう少ししたら、近界民とかなり激しい戦いが始まる」
思わず息を呑んだ。迅は話を続ける。
「かなりでかい戦いだ。二年もブランクあるお前じゃきつい」
何年も近界民と戦ってきたからこそ、迅には分かるのだろう。今の私では足手まといになるということ。それだけ相手は強い。本当は引き下がりたくないけれど、もしここで迅の言う通りにしなくても、恐らく私は忍田さんに止められるだろう。遅いか早いか、それから迅に言われるか忍田さんに言われるかの違いしかない。
私が首を縦に振ると、迅は少し安心したようだった。
150304 酸性