除夜の鐘が鳴り響く中、日付が変わって年が変わった。私はブラックコーヒーを飲みながら、越した感覚が全くないなぁと思った。私はいまボーダー本部の屋上にいる。街を見渡しながら、寒い中で飲むコーヒーは中々格別だ。
ボーダーには年末も正月もない。正確には近界民には、だ。そのお陰で、私たちはこうやっていまも在住という仕事をしなければならない。私が望んでやっていることだけれど、今年の始まりが仕事だというのはあまりよろしくないような気がする。なぜなら一年の計は元旦にあるからだ。今年も私は彼氏もできず、仕事をただ黙々と熟していくのだろう。同級生たちは華やかな日々を送っているだけに、少しだけ悲しくなった。

「寒くないのか?」
「……なんでここにいるの?」

さっきから、気配がするな、とは思っていた。特になにもして来ないので私も気にせずにいたのだが、いま話しかけられて誰だか分かった。玉狛支部の迅だった。彼は毎年正月は玉狛で、林藤さんたちと楽しく過ごしていたはずだ。まさか今年は本部に来ているなんて。

「ちょっとな」
「そう。大変なのね、S級さんは」
「そう言うなって」

年が明けて初めに会うのが迅だとは、今年はもうついてないどころじゃない気がする。ため息を吐いて振り返ると、迅も同じくマグカップを持っていた。中身は恐らく私と同じだろう。
なにを考えているか分からない笑みを浮かべて、迅は私の隣に腰を掛けた。

「今日はぼんちあげ持ってないんだ」
「まあ、な」

変な迅だ。そう思った。今日はいつもより喋らない。それに加えて、なんだかピリピリしている気がする。どうしたのか聞こうと思ったけれど、なんだかそれも許されないような具合だったから、すんでのところで言葉を飲み込んだ。
代わりに彼の名前を呼ぶ。

「なんだ?」
「あけましておめでとう」
「…ああ。おめでとう」

そこで会話は終わってしまった。ああ、続かない。迅は私にどうしろと言うのだろう。機嫌が悪いならここから出て行けばいいのに。もう一度ため息を吐けば、迅は街に向けていた目をこちらに向けた。

「なぁ、玉狛に来る気…ないか?」
「急にどうしたの」
「急じゃない。ずっと考えてた」

唖然とした。まさか迅がそんなことを考えていたなんて。呆然と彼を見つめていると、迅は言葉を続けた。

「お前の実力ならこっちに来ても問題ないし、みんな歓迎してる。どうだ?」

ずっとこれを言いたくて、彼はピリピリしていたのか。ふに落ちたような、そうでないような。私は迅から目を逸らした。

「……考えさせて」
「今すぐにとは言わないさ」
「うん」

林藤さんにはお世話になったから、彼の元で働きたいと思ったこともある。彼はとても有能で部下からの信頼も厚い。けれども、それ以上に私は木戸司令に恩があった。だから私は本部で木戸司令の手となり足となり働いている。私は木戸派であり木戸派でないのだ。

「待ってるから」
「うん」

その言葉を信じてみたいと、少しだけ思った。

140104 酸性



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