あれから荒北と名字は何度か連絡を取り合い、一緒に学食を食べる仲にまで発展していた。自転車部の先輩たちはそんな荒北を冷やかしつつ、生暖かい目で応援している。金城も素知らぬ顔をしつつ、二人の仲を気にしていることに荒北は気付いていて、最近は始終イライラしていた。
そんな七月。だいぶ暑くなってきたこの頃、荒北と名字はいつものように学食で昼食を摂っていた。荒北はご飯に味噌汁、それから鳥の照り焼き。名字はカレーライスだ。

「なんでこんな暑い中、カレー頼むわけ? わけわかんね」
「食べたくなったんだから仕方ないでしょ」

そんな会話をしながらお互い食事を進めていく。荒北はチラリと名字を見て、未だにこの感じには慣れねぇな、と思った。そんな荒北の心中を知らず、名字は黙々とカレーを食べ続け、完食した。

「ごちそうさま」
「食い終わんの早ぇヨ」
「お腹空いてたの」
「あっそ」

そんな取り留めのない会話を続けていると、荒北はふと名字の違和感に気づいた。しかしその違和感の正体は分からない。まじまじと彼女を見つめた後、荒北は小さく声を漏らした。

「右耳……」
「ん? ああ、そう。ピアス開けたんだ」

右耳のピアスが三つに増えていた。荒北は嫌そうに名字の右耳から目を離す。
荒北はピアスと言うものが好きではなかった。なぜ好き好んで身体にわざわざ穴を開けるのか。それが荒北には理解できなかったし、しようとも思わなかった。中学と高校の初め、自分がグレていたときもリーゼントはすれどピアスは開けなかった。それほどまでに荒北はピアスを好まない。
それから意識を話すように、ご飯を口にかきこんで味噌汁を飲み干す。そして少し乱暴に箸を置いた。
それを待っていたかのように、名字が口を開く。

「ねぇ、荒北」
「なんだヨ」
「私と付き合ってみない?」

メシを食い終えていて心底良かった、と荒北は思った。名字の提案は学食にはあまりにも似つかわしくなかった。ガヤガヤとうるさい中で、彼女はニヒルな笑みを浮かべて荒北を見やる。彼は口元を引きつらせることしかできない。

「オイオイ、何の冗談だ」
「冗談なんかじゃない。至って本気」
「嘘つけ。なに企んでんだ」
「なにも」

この数ヶ月で、名字の印象は荒北の中で驚くほど書き換えられた。その一つの中で、こいつは信用できない、ということ。中学生だった頃の名字とは違う。荒北は目を閉じてそれを頭の中で反芻した。しかし、それよりも彼は今の名字に興味があった。

「……分かった。いいぜ。付きやってやるヨ」
「言葉は額面通りに受け取って欲しいんだけどなぁ」

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