中学時代の名字は、どこにでも居そうな地味目な女子であったと荒北は記憶している。一部の中学生特有の反抗的な人間とは違い、素行も成績もそれなりに良かった。教師からの評判も上々で、当たり障りのない人間。しかし、野球ができなくなりやさぐれた荒北に対して変わりなく接してきた。当時の荒北は誰からも避けられていたため、とても印象に残っているのだ。

「あー、クソ。わかんね」

そんな独り言を呟きながら荒北は空を見た。快晴で、絶好の自転車日和である。
そんな名字が変わっていた。それに心が追いつかないのだ。中学の卒業式のとき、卒業証書を受け取る名字の後ろ姿を見ながら、こいつは一生こんな感じなんだろうな、と荒北は思っていた。それが見事に覆されたのだ。彼女の三年間に一体何があったのだろう。荒北は、そんならしくないことを考える。

「どうした、荒北」
「…金城かよ」

モヤモヤした気持ちでロードに臨んでいたからか、そんなところを金城に察されてしまった。イライラしながら「なんでもねぇヨ」と吐き捨てる。冊子がよい金城とはいえ、指摘されるほど自分が元クラスメイト一人に動揺していたことに気が付いて、荒北はさらに小さく悪態をついた。
風を切って自転車を走らせる。先輩たちは後ろの見えないどこかにいて、ここには荒北と金城しかいない。

「荒北」
「ンだよさっきから!」
「この間、大学内でお前の知り合いだという女性にあったのだが」
「あァ…?」

まさか、と思って荒北は金城のほうに顔を向けた。彼はいつもと変わらない調子でペダルを回している。表情からは何も読み取れない。

「荒北は自転車部に入っているのかと聞かれたから、そうだと答えておいた」
「……あっそ」

そんな情報だけでは名字かどうかは判断がつかない。そのまま金城は黙ってしまい、その日荒北は最悪な気分のままロードを終えた。

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