「今日、一緒に昼メシ食わねぇか」
「……は、」

若松がおかしい。お前となんか顔合わせたくない、と言われるならまだしも、一緒ご飯を食べようと言うなんて。天変地異の前触れなんじゃないかと思う程に、私は驚いた。でも断る理由はないから了承して、いま私たちは二人で屋上にいる。

「ねぇ、なんでいきなり一緒に食べようなんて言ったの?」
「別に。気分だよ」
「ふぅん」

気分。気分で若松はこんなこと言うだろうか。お弁当を食べ終わってボーッと空を見ていると、急に手が何かに包まれた。言うまでもなく、それは若松の手で。突然のことでびっくりした私は、思わず短い悲鳴をあげてしまった。

「わ、悪ぃ」
「あ…。ううん、大丈夫」

なんなんだろう、この雰囲気は。悪くもないけれど、良くもない微妙は雰囲気。
若松はジッと私の目を見ていた。私はそれが気まずくて目を逸らす。しばらく沈黙が続いた。若松はなにも言わない。どうしよう。

「名字」
「な、に」
「名前で呼んでくれないか」

何を言い出すのかと思えば、彼は真剣な表情をしてそんなことを言った。もしかして、今までずっと怒っていたのは、私が名字でしか若松のことを、呼ばなかったからなのだろうか。そうだとしたら、私たちは一年間すごく馬鹿なことをやっていたことになる。そんなことを思って、私は思わずため息を吐いた。若松が顔をしかめる。彼の問いに私が呆れたのだと勘違いしたらしい。

「ダメなのかよ」
「キレないでよ、若松」
「だからっ……!」
「………こうすけ」

呼んだ。初めて呼んだ、若松の名前。彼を見れば、顔は真っ赤だった。

「だああああああああ!」
「こうすけ、うるさいよ」

全力で照れる若松を見て、なんだか馬鹿みたいだなと思った。馬鹿みたいで阿呆みたいで。ちょっとだけ愛おしい。
なんで私たちが付き合っているのか、思い出した気がした。


(了)




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