ファーガスは槍の扱いに長けた者が多い。それはひとえに、英雄の遺産に槍が多いからだろう。現在青獅子の学級でも殿下をはじめ、イングリットやシルヴァンも出撃時には槍を装備している。私も彼らと同様に基本的には槍を扱うことがほとんどだった。
けれど先日、先生にお願いをして剣を学ぶことにさせてもらった。久しぶりに握った剣は、訓練用といっても重たい。身体がふらふらしているのが自分でもよく分かった。


「フン……。なんだその格好は」


訓練場でよたよたしていると、同じく訓練中だったフェリクスに鼻で笑われた。恥ずかしいけれど、私も自分で笑いそうになるくらい情けない姿をしていることは理解している。


「久しぶりに握ったけれど……重たいね」
「鍛え方が足りないだけだ」


槍と剣では全く勝手が違う。鍛え方もなにもあったものではないけれど、そんな言い訳を口にするのは決まりが悪い。ぐうの音も出ない私は、黙ってひたすら剣を振るい続けた。



**



「……なぜ剣を選んだ」
「え?」
「お前なら槍の方が合っているだろう」


鍛錬の休憩中、フェリクスが私に話しかけてきた。彼はお喋りな方ではないし、私たちはお互いに距離をとっているから、彼の方からしっかりと話しかけてくるのは随分久しぶりだ。懐かしさすら覚えるくらいに。


「……」
「おい、なんとか言ったらどうだ」
「……フェリクス、怒りそうだもの」
「それはお前次第だろう」


やけに食い下がってくるなぁ。
適当な理由でごまかしてしまってもよかったけれど、フェリクスのことだから何か考えているのかもしれない。そう判断して、私は口を開いた。


「みんなのため、かな」
「は……?」
「槍だけしか使えなかったら、もしものときに困るかと思って。なんでも満遍なくできた方が臨機応変に対応しやすいでしょう?」
「そんなことは槍を極めてから言ったらどうだ。今のままでは器用貧乏になるだけだぞ」
「……うん。そうだね」


フェリクスの言うことはもっともだった。私も同じように思っている。あれもこれもと手を出していては、結局どれも中途半端なものにしかならない。それでも、なにかせずにはいられない。いてもたってもいられないのだ。


「……お前は白魔法も黒魔法も得意だろう」
「得意というか……」


幼いころから信仰と理学の勉強はしていた。だから確かに他の人に比べたらで"できる"方なのかもしれない。けれど、得意かと言われるとしっくりこない。


「チッ……。突っ込む猪についていって回復できるのはお前くらいだ」


ああ、気付かれている。
私がどうして焦っているのか、何をしたいのか。恐らくフェリクスはその理由に勘づいている。

思えばいつもそうだった。幼い頃から彼は私たちのことをよく見ていて、彼なりの思いやりをもって接してくれていた。随分と不器用ではあったけれど。


「……ふふ。ありがとう、フェリクス」
「なにを笑っている。気味が悪い」
「なんでもないよ。先生と話してくるね」
「勝手にしろ」


フェリクスにひらひらと手を振って、私は訓練場を後にした。

私が剣にまで手を出し始めた理由。それは、みんなに置いていかれないためだった。
殿下たちは紋章をその身に宿している。その力は強力で、課題のたびに私はみんなに助けられてばかりだった。前節の課題のときだって、私はメルセデスに助けられた。
それだけじゃない。ドゥドゥーもアッシュも日々努力をしている。紋章を持たない私は、彼らのようにもっと頑張らなければならない。いや、貴族である以上、彼ら以上に頑張らなければならない。そうでなければ、なんのための貴族なのか。

フェリクスは私のそういう気持ちを見抜いたのだろう。彼なりの励まし方で私を元気づけてくれた。
人と距離を置きたがるのに、他人の心の機微に案外敏感。四人の中で一番変わっていないのはフェリクスかもしれないなぁ。
そんなことを思いながら、私は先生がいるだろう食堂へと向かった。




221009




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