『据え膳ができあがったから取りに来い』


夕方から夜にかけての防衛任務が終わって、隊員たちと別れたあと。風間からそんな連絡が入った。今日はこのあと、先に居酒屋で飲んでいるはずの風間、木崎、諏訪と合流する予定だった。しかしどうやら三人は随分とハイペースで飲んでいるらしい。いつもは一番先に酔っぱらう風間から、こんな連絡が入るとは思わなかった。風間から連絡が来るということは、彼が一番素面に近くて、他の二人はすでに潰れているということだろう。楽しみにしていた久しぶりの飲み会だったけれど、飲めずに酔っぱらいの彼氏のみ持ち帰ることになりそうだ。はぁ、とため息を吐いて、私は居酒屋へと急いだ。


**


「うわ……」
「遅かったな」


店員に案内されて風間たちのいる個室に入ると、諏訪と木崎がテーブルに突っ伏していた。風間は一人で黙々とフライドポテトをつまんでいる。


「この二人、一体どうしちゃったの」
「疲れが溜まっていたみたいだな。いつもと同じペースだったがすぐに落ちた」
「ああ……。諏訪は心当たりはあるかも」


諏訪はここ数日、太刀川のレポートを手伝っていたから、その疲れが溜まっていたのだろう。木崎に関しては分からないけれど、玉狛支部の隊員で成人しているのは木崎だけだから、きっと色々と大変なんだろう。
席についてテーブルを見渡す。潰れた二人の飲み残しと、そこそこ残っている料理。仕方ないからこれで手を打とう。


「悪いな」
「いいよ。埋め合わせは諏訪にしてもらう。それにしても、据え膳ってなに?」
「据え膳だろう、あれは。」
「ほろ酔いならまだしも、あれはもうただの酔っぱらいだよ」


そもそも据え膳は男に使う言葉ではない。真顔でそんなことを言うあたり、風間も実は結構酔っぱらっていると思う。
諏訪の近くにあるジョッキを手に取って、一気に飲み干した。泡もないぬるいビールが喉を通る。


「ならお前が据え膳になってやれ」
「風間、もう飲まない方がいいよ。ほらお水。」
「諏訪がご褒美がほしいと言っていた」
「ご褒美? なんの?」
「太刀川のレポートのご褒美だと。なら、それを与えるのは彼女であるお前の役目だろう」
「太刀川か忍田さんにもらった方がいいんじゃないかなぁ」
「最近ご無沙汰だとも聞いた」
「確かにその通りだけど、そんなことまで風間たちに話してることは知りたくなかった」


諏訪は一体、風間や木崎になにを話しているのか。私たちのあれやこれを赤裸々に語らないでほしい。諏訪がよくても私が気まずくなる。


「ご褒美はともかく、諏訪は連れて帰るよ。木崎は玉狛によろしくね」
「分かった」


**


「ほら諏訪、着いたよ。鍵出して」


お会計をするころには、諏訪は意識を取り戻していた。諏訪をタクシーに放り込んで、彼の家へと連れて帰る。もう何度も来たことがあるから、当然住所も分かっている。
肩を貸して家の前まで行き、鍵を出すよう促した。諏訪は無言のまま緩慢な手つきでポケットを漁り、鍵を取り出す。あまりにも動きがゆっくりなので、奪いとって私が開けた。
なんとか靴を脱がしてベッドまで連れて行く。木崎ほどではないにしろ、諏訪だっていい体格をしているし、身長も私より10センチ以上高い。ここまで連れて来るのはだいぶ骨が折れた。本人に意識があって、思ったより足どりがしっかりしていたのが幸いだ。
諏訪をベッドに座らせて、流しで適当なコップに水を注ぐ。


「諏訪、吐き気は? 水飲める?」
「ない。飲む」


言葉も思った以上にしっかりしている。コップを渡すと、諏訪は口の中へ一気に流しこんだ。そのままベッドへと倒れこむ。


「太刀川の野郎……。もうぜってー手伝わねえ」
「お疲れさま。明日休みでしょ? ゆっくりしなよ」


本当ならこのまま泊まる約束だったけれど、こうなっては仕方ない。飲み比べで潰れることはあっても、疲れて酔いが回るなんて相当だ。諏訪とはそこそこ長い付き合いだけれど、そんな酔い方をした姿ははじめて見る。今夜はゆっくり休んだ方がいい。
帰ろうと立ち上がると、起き上がった諏訪に左腕を掴まれた。


「帰んなよ」


そんな目で見ないでほしい。弱った彼氏なんて目に毒だ。諏訪がご無沙汰ということは、当然彼女である私もご無沙汰なわけであって。けれど、諏訪がこの状態でどうこうするのは私の良心が咎める。抱きつきたい気持ちをグッと堪えて、首を横に振った。


「か、帰るよ」
「やだ」
「やだって言われたって……。うわ!?」


成人男性が、やだ、なんて言わないでほしい。
それでも帰ろうとする私にしびれを切らしたのか、掴まれたままの腕を引っ張られた。酔っているというのに、力は随分と強い。バランスを崩した私は、そのままベッドに座る諏訪に抱きしめられた。


「泊まる予定だったろ」
「だって酔ってるじゃん」
「酔ってねえ」
「それはさすがに無理がある、ぐえ、んむ」


うるさい私が嫌になったらしい。黙れと言わんばかりに、むりやり上を向かされてキスをされた。ぐえ、なんて色気のない声が出てしまう。久しぶりのキスがこんなにお酒くさいなんて。雰囲気もなにもあったものではないのに、諏訪とキスをしているというだけで嬉しくなってしまう。扱いやすい女だと自分でも思う。
諏訪のゴツゴツとした手が、するりと服の中に侵入してくる。思わず服の上から掴んでとめた。


「だめか?」
「酔ってるし疲れてるし、しんどいでしょ」
「触れねえ方がしんどい」
「ばか」


殺し文句。そんなことを言われてしまったら、とめられない。私だって、諏訪に触れられないのはしんどいのだ。
掴んでいた手を離して、諏訪の首に両腕を回す。


「いっぱいさわって」


視界がぐるっと回って、ベッドに押し倒される。暗い部屋の中でも、諏訪がギラギラとした目をしているのがよく分かった。


結局、据え膳は私と諏訪のどちらだったのだろう。




201225
title by 甘い朝に沈む

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