※学生




「硝子と傑ってお似合いだよね」


放課後の教室。久しぶりに誰も任務が入らなかったので、私たち四人ーーー私、硝子、傑、悟ーーーはだらだらと内容のないおしゃべりに勤しんでいた。
いつものように、傑と悟が売り言葉に買い言葉でくだらない言い合いを始めようとしたので、私は以前から思っていたことを口に出してみた。二人の言い合いは、普通にとめたところで止まることはない。全く関係のない話題で乱入をして水を差した方が、実は穏便におさまるのだ。


「ハァ?」
「私と硝子が?」


狙いどおり、二人は虚をつかれたようだった。悟は意味が分からないと言わんばかりの顔をしているし、傑は意外そうに目を丸くしている。硝子は先を促すような目つきで私を見ていた。目の前で言い合いをされるよりも、話題にあげられる方がマシだと判断したらしい。


「硝子の大人っぽい色気と傑の落ち着いた雰囲気、すごい合うと思うんだよね。お似合いだと思うよ」
「クズは願い下げだ」
「ひどいこと言うね」
「まあまあ。見た目の話だから」


硝子に面と向かってクズだと言われた傑が、ひどいと苦笑する。たしかに傑の性格はあまり褒められたものではないけれど、邪険にするほどでもないと思う。見た目の話だ、なんて言って誤魔化したけれど、それは嘘だ。落ち着いた見た目に反して案外子どもっぽいところのある傑を、硝子ならうまく導ける気がする。この二人なら性格的にも合うのではないだろうか。そこまで言ってしまうとさすがに硝子に嫌がられると思うので、口には出さずに黙っておく。


「それなら、名前と悟は? お似合いだと思うけど」
「傑、寝言は寝て言えよ」


ニコニコと意地の悪い笑顔を浮かべて、傑が私と悟を交互に見る。余った者同士をくっつけようとでもしているのか。そんな傑の心中に気がついたのか、悟は嫌そうな顔で傑を睨む。


「悟と私は似合わないと思う」
「へぇ?」


私の言葉に、硝子がにいっと笑う。


「悟は年上が似合うんじゃないかな。歌姫さんとか」
「歌姫ぇ!? ないないないない」


ウゲェ、と悟が吐きそうな顔をする。そんな反応をするほど嫌いだっただろうか。むしろはたからは、悟は積極的に歌姫さんに関わりにいってるように見えるけれど。


「悟は叱ったり諭したりしてくれる人が合うと思う。大抵の人って悟に好き勝手させちゃうし。歌姫さんはそういうところちゃんとしてくれるじゃん」
「たしかに」
「でも歌姫センパイの気持ちもあるでしょ?」
「俺の気持ちはどうなるわけ。歌姫とか絶対あり得ないから。弱いし」
「悟より強い女の子はいないでしょ」


私の言葉に傑が頷く。硝子の疑問はもっともだった。悟は、付き合いきれないとばかりに机に突っ伏してぶすくれている。
弱いことが付き合わない理由なら、悟と恋人になれるのは傑だけになる。そんなことを言えば悟と傑に袋叩きにされそうだったので、余計なことは言わないようにさっさと話を進めることにした。


「じゃあ歌姫さんに聞いてみようよ」
「ハァ?!」


ポケットからケータイを取り出して開く。電話帳を開いて歌姫さんの名前を探していると、悟が私の手から勢いよくケータイを取り上げた。


「いい加減にしろよ」
「そんな怒らなくても大丈夫だよ。歌姫さんもたぶん悟のこと好きだよ」
「誰がいつ歌姫のことが好きっつった!」


すごい形相で悟が怒鳴る。おお怖い。
逃げるように椅子から立ち上がって、パタパタと傑の後ろに隠れる。すると目の前に傑のケータイが差し出された。見上げると、これまた意地の悪い顔をしている。私の悪ノリに乗ってくれるらしい。ありがたく受け取ると、画面にはすでに歌姫さんの番号が表示されていた。さすが、用意がいい。私はボタンを押して歌姫さんに電話をかける。


「傑!」
「あ、もしもし? 歌姫さんですか? 名字名前です。傑のケータイ借りてます」


悟が叫ぶのと歌姫さんに電話が繋がるのは同時だった。


**


お久しぶりです。歌姫さんにちょっと聞きたいことがあって。いま電話して大丈夫ですか? ありがとうございます。
歌姫さんって悟のことどう思ってますか? 異性としてってことです。男の子として。え、そうなんですか? どうして?
うーん、まあ、たしかにそうですけど、年上としては、そういう生意気なところが可愛かったりしませんか? またまたぁ。
じゃあ、身長が高いところはどうですか? スラっとしてますよ。でもちゃんと筋肉ついてて腹筋も割れてるんです。細マッチョってやつです。お姫さまだっことか、頼んだらしてくれるかもしれませんよ。
じゃあ、強いところは? 守ってもらえますよ、たぶん。ほら、この前も悟に助けてもらったじゃないですか。彼女になれば守られ放題ですよ。きっと。
えー? じゃあ、顔はどうですか? 近年稀に見るイケメンですよ。かっこいいと思いません? いやいや、そんな即答しなくても。特にあの目とか。私、悟のあの目ダメなんですよね。サングラスなしで見られると、逸らせなくなるっていうか。ドキドキするっていうか。いえ、怖いってわけじゃまったくないんですけど……。むしろ、もっと見られたくなりません?
うーん、じゃあ、声はどうですか? 悟の声。女性は声フェチ多いって聞きますよ。嘘だぁ。なんとも思わないわけないですよ。あんな声なのに。まあ、ムカつくことばっかり言うから普段は意識しないかもですけど、落ち着いて喋るといい声してると思うんですよね。前に耳元で喋られたときがあって、すごくぞわぞわしたんですよ。いえ、嫌だったわけじゃまったくないんですけど……。むしろもっと聞きたいというか。
ええ!? そんなことないですよ! 悟は私より歌姫さんの方がいいですって。あれは同い年に制御できませんよ。だから歌姫さんみたいな大人で落ち着いた人がいいなって思って、こうして悟の良いところをプレゼンしてるんじゃないですか。それで、どうでした? 悟の印象変わりました?
そうですか……。分かりました。悟に伝えておきますね。はい、失礼します。


**


電話を切って顔を上げると、三人はなんとも言えない顔で私を見ていた。特に悟は、サングラスのせいで目は見えないけれど、口をへの字にして一番変な顔をしている。お礼を言って、傑にケータイを返した。傑の受け取り方が妙にぎこちない。硝子が私に結果を確認する。


「それで、歌姫センパイはなんて?」
「割とマジで嫌い、だって。悟の良いところプレゼンしたんだけどダメだった。ごめんね、悟」


私の言葉に悟は無言。サングラスをかけているせいで、ちゃんと目が合っている気がしない。口はまだへの字のままだ。
悟は椅子から立ち上がると、無言のまま教室から出て行ってしまった。


「歌姫さんにフラれたの、そんなにショックだったのかな。悪いことしたかも」
「それより、名前に聞きたいことがあるんだけど……」


傑が、ことばを探すように視線を泳がせる。その先を引き継いだのは硝子だった。


「悟の目、ダメなんだ?」
「え? うん、そうだね。なんかこう、見られるとドキドキしない?」
「しないよ」
「嘘だぁ。傑は? するでしょ?」
「私もしないかな」
「ええ!? じゃあ声は? ぞわぞわするでしょ?」
「それもしない」
「私もしないね」


驚いた。みんながみんな、そうなるわけではなかったのか。それなら歌姫さんに全部否定されたのも頷ける。


「さっきも言ったとおり、私はやっぱり名前と悟はお似合いだと思うよ」
「それ電話で歌姫さんにも言われた」


また意地の悪い笑顔を浮かべて、傑が楽しそうに話す。
私は歌姫さんの方がお似合いだと思うけどなぁ。悟は前途多難である。可哀想に。




201207
title by 甘い朝に沈む
五条のことをかなり好ましく思っているけど自分の気持ちに全く気が付いていない子と、そんな風に思われていると全く思ってなくて照れた五条を書こうととして撃沈しました。なんだこれ。

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