※少しだけいかがわしい
※方言は曖昧




暗い部屋の中で、電球色の間接照明だけがぼんやりと周りを映し出していた。部屋には、大人が二人で寝てもまだ余裕があるくらい大きいベッドがひとつ。その他には何もない。もしかしたら間接照明が照らしきれていない部分に何かあるのかもしれないけれど、頭の中があまりクリアにならず、そこに意識を割く余裕はなかった。

ベッドの上には、制服を着た一組の男女。一人は私で、もう一人はよく知った顔だった。


「隠岐、」


同じクラスで、同じボーダーB級隊員の隠岐孝二。私は彼に組み敷かれていた。

隠岐は何も言葉は発さず、私にただやわらかく微笑むだけ。印象的な垂れ目がさらに下がって、そのあまりのセクシーさに心臓がドキリと跳ねた。
隠岐の右手が私の頬をゆっくり撫でる。それから、親指でそっと私の唇を触ってきた。


「……ええ?」


何に対して許可を求めているのか。それをあまり考えられないまま、私は頷く。

その返答に満足がいったのか、目尻を下げたままの彼は、ゆっくり私に顔を近づけるとそのままキスをしてきた。私は目を閉じて、当たり前のようにそれを受け入れる。
触れ合うようなキスを何度かすると、隠岐はもどかしそうに唇で私のそれを甘噛みしてきた。私もそっと口を開けて、同じように甘噛みし返す。次第にそれだけではなくなって、舌を絡め合うようなキスになった。

ふいに、彼の手が私の胸に触れた。いつの間に裸になったのだろう。薄目を開けると、隠岐も布一枚纏っていなかった。
キスをしたまま、隠岐は器用に私の両胸をいじる。片方はやわやわと揉んで、もう片方は控えめに頂きに触れてきた。


「、ん……」


唇の隙間から思わず声が漏れる。途端に頭が沸騰しそうな恥ずかしさに駆られて、私は両手で彼の両肩を押した。隠岐は素直に唇を離してくれたけれど、胸はそのまま触れ続けている。


「かわええ」


待って、と静止する前にそんな言葉を言われてしまって、私は何も言えなくなってしまった。顔が熱い。きっと赤くもなっているだろう。部屋は暗いけれど、隠岐はそれに気づいているのだろうか。
恥ずかしくて、でも止めてほしくもなくて、私は隠岐に手を伸ばす。


「隠岐、」
「大丈夫、優しくしたる」



**



最悪だ、と思った。
鳴り響く目覚まし時計のアラームを止めて、私はベッドの上で頭を抱えた。
なんて夢を見てしまったのだろう。クラスメイトの、そこまで話したこともない男子とのいかがわしい夢を見てしまうだなんて。

原因は、昨日友達に借りた、少し過激な少女漫画のせいだろう。夢の内容がそれをなぞるようなものだったから、起きてすぐに分かった。しかしどうして相手は隠岐だったのか。確かに接点はあるけれど、最近業務連絡以外に彼と話した記憶はないし、元々取り立てて仲が良いわけでもない。米屋や出水ならそれなりに話したことがあるから、夢に出てきたとしてもまだ理解できるのに。
一体今日どんな顔をして一日教室にいればいいのか。私はベッドの上で頭を抱えたまま、ゴロゴロと転がるしかなかった。



**



「おはようさん」


どうしてこんな日に限って朝から下駄箱で会ってしまうのか。

登校後、下駄箱で上履きに履き替えていると、後から来た隠岐に話しかけられた。
いつもならここで彼と会うことはない。あんな目覚めのせいで家を出るのが少し遅くなってしまったからだろう。
私は内心恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりながら、なんとか同じように挨拶を返した。


「なんや、顔赤くない?」
「き、気のせいだと思う」


しまった、声が上擦った。私のあからさまに変な態度に、隠岐は怪訝な顔をして首を傾げる。


「なら、ええけど」


そこでふわりと微笑むものだから、私は今朝の夢を、隠岐のあの微笑みをはっきりと思い出してしまった。途端に身体中が熱くなる。
これ以上彼と話していると、まずい。


「さ、先に教室行ってるから!」


叫ぶようにそう言って、私はその場から逃げた。
どうしよう。顔が熱くてたまらない。変に隠岐を意識してしまってる。


これが何かに繋がらないことを祈りながら、私は廊下で途方に暮れた。




211011
title by 甘い朝に沈む
リハビリに。夢って、どうしてこの人が出てきたんだろうってことありますよね。

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