その死は唐突だった。いつものように白蘭さんと一緒に名前の部屋に入ると、声が聞こえなかったのだ。いつもならば、部屋に入った瞬間に僕たちの目の前に来るはずなのに。不思議に思って白蘭さんと共に広い部屋を捜索すると、彼女はたくさんのぬいぐるみに囲まれて眠っていた。眠っていたのだ。眠れなくなっていくはずの病気なのに。だからつまりそれは、名前の死を意味していた。二人で彼女の傍に駆け寄るも、すでに息はない。僕はそこに呆然と立ちすくみ、白蘭さんは彼女を抱きしめて黙っていた。気の遠くなるような時間、僕らはそうしていた。

「っは……?」

―――というところで目が覚める。最近、僕が毎日見る夢だ。唐突に名前が死んでしまう夢。しかし、これはあながち嘘ではない。それくらいに、彼女には時間が残されていなかった。いつ死んでもおかしくない状態。僕は色んな罪悪感に苛まれながら、毎日こんな心が張り裂けそうな夢を見ていた。
心を落ち着かせるために、側にあったペットボトルを開けて中の水を飲む。一晩経って温くなってしまったそれは、とてもじゃないが美味しいとは言えなかった。
どうにか落ち着きを取り戻し、自分の身体に目を落とす。服は汗でびっしょりと濡れていた。

「とりあえず、着替えなきゃ……」

ポツリ、そう呟いた瞬間、側にあった電話が音を立てて鳴った。画面には白蘭さんの四文字が表示されている。すぐに手にとって通話ボタンを押した。

『正チャン、行こう。僕は先に行ってるね』

電話越しだけれど分かる。白蘭さんは僕なんかよりずっと憔悴し、疲弊していた。そんな彼に僕はなにも言うことができない。なにか言ったところで気休めにしかならないのだ。はい、とだけ返事をして電話を切る。適当な服に着替えた後、僕はすぐに地下のあの部屋へ向かった。

「ああ、正チャン。遅かったね」

部屋に入ると、そんな白蘭さんの声が聞こえた。怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない、淡々とした声音。すみません、と謝ろうとして気付いた。名前の声が聞こえない。

「遅かったね」

もう一度、白蘭さんが繰返す。瞬間、最悪の事態が頭を過ぎった。身体全体からサッと血が引いていくような感覚。身体の末端が死んだ人間のように冷たくなっていく。視界がぐにゃりと歪んで吐き気がした。

「ねぇ、死んじゃったよ」

頭を鈍器で殴られたような感覚がした。
なにが、とは彼は言わなかった。言わなくても分かる。分かってしまう。けれど分かりたくなどない。地面に縫い付けられたように足が動かなくなった。白蘭さんはこちらを向かない。僕はふと、白蘭さんの身体に隠れて黒い手が伸びているのが見えた。それは紛れもなく。

「名前……」

ああ、死んでしまったのか。正夢になってしまった。

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