白蘭さんの部屋に入るとそこはひどい荒れようだった。壁は傷付き、床には花瓶の中身がぶちまけられている。マシュマロもぞんざいに机の上に放り出されていた。後で誰か呼んで掃除させなければ、とため息を吐きながら考える。それからチラリと部屋の奥に視線を投げかける。部屋の主は隅の方にうずくまっていて、一言も声を発しない。僕のほうから声をかけようとするも、それは彼によって遮られてしまった。

「時間……ないよね?」

その言葉だけで、白蘭さんが名前のことを言っているのだと分かった。だから僕は開きかけた口を閉じる。それを否定することは僕にはできなかった。
名前にはもう時間がない。黒い痣は、彼女の身体のほぼ全てを覆い尽くしている。それはつまり、もうすぐ彼女は死ぬということ。白蘭さんにとって名前はなくてはならない存在だ。だから、彼女が目に見えていなくなると分かるこの状況に、白蘭さんは焦っていた。現在、白蘭さんは憔悴しきっている。

「あの病気を治す手立てがないんだ。どうしよう、正チャン」

僕は答えを知っている。名前は誰のことも愛していないから、薬は手に入らない。だから彼女の病気は治らない。僕らはどうすることもできない。できることがあるならば、ただ黙って名前が死んでゆくところを見ていることだけだ。だけど、僕はどうしてもその事実を白蘭さんに伝えることができなかった。もしもその事実を伝えたら、彼はどうなるのだろうか。もしかしたら自ら命を絶ってしまうかもしれない。それは僕やボンゴレにとっては願ったり叶ったりだけれど、本当にそれでいいかどうか分からないのだ。

「ねぇ、正チャンってば」
「……はい」

その言葉を最後に、白蘭さんは口を閉ざしてしまった。部屋の隅が白くて黒い。僕は立ちつくすことしかできない。なんにも、できないのだ。白蘭さんにも、そして名前にも。
この、首を絞められるような感覚はなんだろう。

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