「ねぇ正一、今日はあなたにプレゼントがあるの」

名前から直々に指名され、僕はいま彼女の部屋に二人きりでいた。真っ白な部屋は少しばかり居心地が悪い。なんとか気を落ち着かせようと、眼鏡を気にしている振りをする。そんな僕の気持ちなんてお見通しなのか、名前はクスリと笑った。だから今度は気まずくなってしまって、逃げるように咳払いをする。何度か彼女と彼女の部屋に二人きりという状況はあったけれど、未だに僕は名前と二人きりになることに慣れることができない。


「プレゼントって?」
「これ。私が作ったの」

そう言って、名前は小さな瓶を差し出した。僕はそれを受け取り、横から中身を見つめる。中身は赤色をしたなにかが入れられていた。

「これはね、苺と林檎のジャムなの。きらめきも少し入れたんだ」
「きらめき……」

白蘭さんの言っていた、名前の魔法。普通の人間には存在しない不思議な力。この時代には驚くようなことではないけれど、それでも物珍しいそれ。
蓋を開けて匂いを嗅ぐとふんわりといい匂いがした。ジャムはラメが入っているかのように、キラキラと瞬いていた。
名前を見れば、彼女は優しく微笑んでいた。その表情が僕を混乱させる。

「君は……、一体なにを考えているんだ?」

じつはもう、僕は彼女の奇病の真実にたどり着いていた。白蘭さんにはまだ伝えていない。この病気を治すためには、あまりにもリスクが大きすぎるからだ。
名前の病気を治すために必要なのは、人間の皮膚だった。正確に言えば、奇病に罹っている者が愛している者の皮膚だ。つまり、名前が心から誰かを愛しているならば、その人間の皮膚が薬となるのだ。
僕はそれが白蘭さんであれば、と思う。そうすれば二人は相思相愛だ。狂おしいくらいに彼女を愛している白蘭さんからすれば、彼女の病気を自分が治せるなんて夢のようだろう。
けれど、先に述べたようにこれはリスクが大きい。名前が誰も愛していなければ、彼女は死んでしまうのだから。眠ることができなくなり、最終的に苦しみながら死んでゆく。
僕は、名前はこの真実を知っているのではないかと感じている。彼女の微笑みが、死を受け入れたような人間の顔に見えるから。それはつまり。

「別になにも考えてないよ」
「じゃあ、君は白蘭さんのことをどう思っているんだい?」

名前が視線を僕から外す。

「尊敬してるよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「それは、」
「ごめんね、正一。私はあなたの望むような答えはできないよ」

僕の視界の端に、さっき貰ったジャムが映る。それはまだキラキラと輝いていた。

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