「あの子はね、ここに来るまでは山脈に住んでいたんだ」

ある日、白蘭さんはいつものようにマシュマロを弄りながらそう言った。彼の手の上でマシュマロが形を変える。

「あの子は魔術や魔法に秀でた種族の生き残りだったんだよ」
「魔術や魔法…?この時代にはあまりにも非科学的じゃないですか?」
「そう思うでしょ?でも意外にそういうことって存在しちゃうんだよねー」

ははは。楽しそうに白蘭さんが笑う。形の崩れたマシュマロを愛おしそうに眺め、彼は口の中にそれを放り込んだ。

「出会ったときにはすでにあの子は奇病に侵されていてさ。それがもう堪らなく愛おしくて。連れて来ちゃった」

語尾に星かハートマークでも付きそうな勢いで白蘭さんは続けた。つまりは、白蘭さんはあの子に恋をしてしまったのだろう。だから名前をここ、ミルフィオーレへ連れて来た。そして地下に幽閉した。驚くべきことは彼女がそれを了承したことだ。いくらなんでも、病気が治るかもしれないという微かな希望だけで、白蘭さんについてくるのはおかしい。また脅しでもしたのか、この人は。

「やだなぁ、正チャン。僕が脅しなんてするわけないじゃないか」
「、」

白蘭さんが僕の気持ちを読んだかのように答える。いや、実際に読んだのかもしれない。彼ならきっと、読心術くらい造作もないことだろう。首筋に嫌な汗が伝った。カラカラと笑いながら、白蘭さんはまたマシュマロを頬張る。

「ちゃーんと説得して連れて来たんだよ。ま、説得するまでもなく、あの子は僕についてきてくれたけどね」

目は笑っていなかった。僕はそんな彼が怖くなって、気を紛らわせるためにため息を吐いて眼鏡を押し上げる。
なんにせよ、深入りしない方が賢明だ。ああ、恐ろしい。

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