名前が亡くなってから十日が経った。彼女は秘密裏に、しかし丁重に火葬され、今はお骨となっている。それは白蘭さんと僕以外の手には届かないところに厳重に保管されている。白蘭さんといえば、部屋に閉じこもったまま全く出てくることがなくなってしまった。名前の存在を知らないブラックスペルは白蘭さんの態度に怒り、一枚岩ではないミルフィオーレファミリーは現在ちょっとした崩壊状態となっている。僕はその後処理に追われて走り回りくたくたで、名前のことを考えている余裕があまりなく、幸い白蘭さんのような状態になることはなかった。

「はぁ、疲れた……」

深夜二時をまわった頃、やっと僕は解放された。今日も一段と疲れた。明日も早朝から後処理やらなにやらに追われるんだ。なんてことを考えながらベッドに沈む。ふわふわとした気持ちの良い感覚の中、ふと僕は目を開いた。すると視界の端で何かが光る。なんだろうと疑問に思って起き上がり、眼鏡を手に取ってそれを見た。

「あ、」

ジャムだった。名前の作ってくれたイチゴジャム。そういえば忙しくて食べる余裕もなかった。疲れた身体に鞭打って、ふらふらした足取りでジャムの瓶が掴める距離まで歩く。そっと手に取った瓶はひんやりと冷たかった。まだ食べられるだろうか。そんなことを考えながら瓶の蓋を開ける。すると中から光が飛び出してきて、目の前でパチパチと弾けた。完全に意識が覚醒していなかったせいか、その光に目が眩んでしまう。

「きらめき、か……」

大丈夫そうだと確信できた。明日起きたら、白蘭さんと一緒に食べよう。それが少しでもあの人のためとなればいい。まだ死んでもらっては困るのだから。



朝。チェルベッロたちに起こされた。しっかりと睡眠をとっていないせいか、ひどく頭痛がする。けれど寝てはいられないので、なんとかベッドから這い出て支度を済ませた。ポケットの中にジャムが入っているのを確認して、白蘭さんの部屋に向かう。途中ですれ違ったブラックスペルに睨まれて、少しお腹が痛くなった。

「失礼します」

断りをいれて、白蘭さんの部屋に入る。彼はこの間と変わらず、部屋の隅にうずくまっていた。この、白蘭さんのために作られた白い部屋が今ではひどく滑稽に見える。落ち着け、と心の中で呟いてから彼の側まで歩く。

「白蘭さん、名前からの預かり物があります」

無言で白蘭さんが顔を上げた。生気の全くない無表情なそれに、僕は一瞬たじろいでしまう。目を逸らしてポケットの中に手を入れ、瓶を出した。

「一緒に食べませんか?」

瞬間、ジャムの瓶が怪しく光った気がした。

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