自分が何を考えているのか分からなくなった。だから、自分がどうしたいかなんていう主体性もなくなってしまって、後に残ったのは寂しいという感情だけ。そんなものに流されて、私はファーストキスを米屋に捧げた。
唇がゆっくりと離れて、私は目を開く。予想以上に近くに米屋が居て、思わず私は短い悲鳴を上げた。

「それ傷付く」
「ごめん。びっくりした」

初めてのキスの感想は、なんだこんなものか、というものだった。キスをすれば何か変わると思っていた。けれど時間は普通に流れるだけで何も変わらない。漫画によって、キスという行為が無意識のうちに神格化されていたのだと、なんとなく気付いた。
握っていた手を離せば、米屋は少し悲しそうな顔をした。

「私さ、これファーストキスなんだよね」
「え、うそ」
「ほんと」
「名字って純情なんだな」

陳腐な感情に流されてキスしてしまう、私のどこか純情なんだろうか。たとえ聞いてもはぐらかされてしまいそうだったから、無言を貫くことにした。米屋が私の髪を撫でる。

「サラサラだな」
「……ありがと」

それから、しん、とした沈黙が暗い部屋に続いた。米屋は私の髪を撫で続け、私は自分の手に視線を落とす。気まずいような、そうでないような空間。
結局、私は恋愛対象として見ていない米屋とキスまでしてしまった。これが、俗にいう一線を超えたということなのだろうか。そうだとすれば、私と米屋はもうクラスメイトという関係ではないのだろうか。そんな思考が頭の中をぐるぐるする。
こんな人間だと思わなかったと、友達は言うだろうか。流れに任せてキスしてしまうなんて、最低だと罵られるだろうか。頭の中で私を罵倒する友達を想像して、悲しくなる。友達は離れていってしまうかな。そうしたらまた寂しくなってしまうな。

「米屋、もう一回、して」

でも、今が寂しくなければどうでもいいか。結局、私の残念なオツムではそれ以上考えることを拒否してしまって、私は米屋にキスを強請った。彼の、私の髪を撫でる手が止まる。視線を上に上げれば、米屋の黒い瞳が私を見ていた。目を閉じてキスを待てば、もう一度かさついた唇が当てられる。それから、はむ、と私の唇が挟まれた。予想外の事態に身体が強張ってしまう。けれど米屋は気にしていないようで、何度も私の唇を啄ばんできた。それから頭に回されている手とは逆の手で私の片手が握られる。その手の温かさにまた泣きそうになった。しばらく米屋はそうしたあと、唇がそっと離れる。

「米屋は、この先に進みたいと思う…?」
「どっちでもいい」

震える声でそう聞けば、彼は小さく答えた。けれど静まった部屋にはとても大きく聞こえる声だった。

「じゃあ…いい。いらない」

腕で目を覆って首を横に振る。それに米屋は、分かった、とだけ言った。
これ以上先に進んでしまったら、寂しいという感情だけでは済まなくなってしまう気がする。もっと別の何かを欲してしまいそうで怖い。

「今日は泊まってけよ。親は今日帰って来ないから。ゲームでもしようぜ」
「ん」
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