米屋の部屋は思ったよりも簡素だった。部屋には必要最低限なものしか揃っておらず、ゴチャゴチャしている様子はない。私の想像していた高校生男子の部屋とは少し違っていて、なんだか不思議な感じがした。
米屋がテーブルにマグカップを置く。私と彼の分。お礼を言ってそれを手に取った。

「女子を部屋に呼ぶとか久々だわ」

独り言のように米屋が呟く。ふぅん、と興味がないような返事をすしたけれど、私の心は少しドキドキしていた。
男の子の部屋に来たのは小学生以来だ。あの頃は異性がどうのなんて考えもしなかったけれど、今は違う。どうにも頭の片隅で、異性の部屋にいる、ということを意識してしまう。チラリと横目で米屋を見れば、彼はリモコンを手に取ってテレビを付けた。

「なんかDVDでも見る?っていっても、お前が好きそうなのあるか分かんねーけど」
「んー、いまはいいや」
「そ」

プツリ。米屋がテレビを消した。
私はマグカップに口を付ける。中身はホットココアだった。ほどほどに甘くて温くて、私好みである。半分くらい飲み干して、もう一度お礼を言った。米屋は笑う。

「ボーダーってどんなことしてるの?」
「普通に近界民と戦ってるだけ」
「…怖くないの?」
「そんな怖くねーよ。楽しい。ボーダーにも強いやつたくさんいるしな」

私は、米屋は別世界の人だと思う。普通の高校生ではない。それは米屋に限らず、出水くんや三輪くんもそうだ。ボーダーに所属している人は普通ではない。それを私以外の人も感じているのか、私たち一般高校生と彼らには一線が引かれている。

「名字は俺のことが怖い?」

隣に座っていた米屋が、私を見つめながら聞いてきた。
以前、私の友達は出水くんに告白されたことがあった。けれど、友達は出水くんが怖いという理由で彼を振ったのだ。
確かに、怖くないと言えば嘘になる。ボーダーに所属している人は、何を考えているのか分からないからだ。今の米屋も、何を考えているのか分からない。私は見つめてくる彼の目に怯んで、思わず目を逸らした。

「名字」
「な、に」
「キスしたい」

なんで。そう、口から出た言葉は震えていた。

「分かんねーけど」

絨毯に置かれている私の手に、米屋の手が重なる。触れられたところから、急激に体温が逃げるのを感じた。彼が私を見つめてくるから、私は逃れられなくなってしまう。冷えた手で米屋の手を握って目を閉じた。少ししてから、唇にさかついた米屋の唇が押し当てられた。
これが私のファーストキスだった。
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