そういえば、最近今吉くんと会っていない気がする。そう感じたのは、家で第一志望の大学の現代文のノート作りをしていた時だった。図書館に行ってもカフェに行っても、最近は顔を合わせていない。連絡先は知っているけれど、それを使ったことはない。たぶん、今吉くんは部活が忙しいのだろう。彼は主将らしいから。皆をまとめなきゃいけないし、自分も強くなければならない。それに部活に問題児がいると言っていた気がする。その子の名前は忘れたけれど、なんでも技術はあるが荒っぽいらしい。そんな子がいるなら尚更大変なはずだ。

「ダメだ。集中力切れちゃった……」

ここ数日、今吉くんといるときだけではなくて、今吉くんのことを考えただけで集中力が切れるようになった。こんな体たらくでは受験戦争なんて勝ち残れない。そう頭では分かっているのに勝手に今吉くんが頭の中に浮かんでくるのだ。
今頃なにをしているんだろう。なんて思って、なんとはなしに携帯に手を伸ばす。すると触れる直前でいきなりバイブが振動し出した。驚いて思わず短い悲鳴を上げる。しかしすぐ手に取って画面を開いた。

「も、もしもし?」
『久しぶりやなぁ、名字』
「今吉くん!?」

確認もせず電話に出たのが裏目に出た。まさか今吉くんだったなんて。

『なんや、画面確認しとらんかったんかい』
「ごめん。いきなり鳴ったから驚いちゃって」
『ええよええよ。勉強しとったんやろ?』
「一応、かな。今吉くんは?勉強してたの?」
『いや、いま部活終わったとこや』
「えっ?もう二十時過ぎたのに?」
『まぁなぁ』
「お疲れさま。それにしてもどうしたの?なにか用事?」
『あー、用事は特にないんやけど。最近会っとらんな、と思って』

その言葉を聞いて、少し顔が熱くなるのを感じた。今吉くんは何も考えていないことは分かっているけど、それでもそう思ってくれたのは嬉しい。だから、私もいま同じこと考えてたよ、と笑って返した。実際にいま考えていたのだから、これは嘘ではない。
それから数分、取り留めのない話をしてから電話を切った。恥ずかしくなってベッドに携帯を放り投げる。それから私もベッドに倒れこんだ。
頭の中では今吉くんのさっきの言葉が響いている。なんだか、付き合ってるみたいじゃないか。ふとそんなことを考えた。用事もないのに電話して取り留めのない話をして。図書館やカフェで一緒に勉強するのも、いま考えればデートに見えないこともない。
あんまり考えないようにしていたけど、私は今吉くんのことが好きなんだろう。なんだか自覚させられたみたいで恥ずかしい。

「あー、もう。バカ」

これを全部計算してやっているのだとしたら、今吉くんはそうとう腹黒い。





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