Return to Dreamland
あの戦いの後、気が付いたらボクはローアの操縦パネルの前で、いつかのように寝そべっていた。
「アレ?」
ゆっくりと起き上がって、初めて見る場のようにきょろきょろと辺りを見回してから、はっと気付き自らに目をやった。
マスタークラウンの力で変貌していたあの姿ではない。
暗色のローブを身に纏った大きな魔術師の姿でも、形容のし難いおどろおどろしい姿でもない。
青いフードの、ちっぽけな体。
そしてあの子に滅多斬りにされたのは記憶に新しいどころの話ではないはずなのに、1ミリたりとも傷は見当たらないし、痛みだって僅かにもないのだ。
もしかして、と血の気が引くような想像をする。
ーー夢、だったのではないかと。
だとしたら、どこから?
カービィと戦うところから?
ポップスターに墜落して、カービィ達と出会うところから?
ランディアに戦いを挑むところから?
いずれにせよ、自分の持っている記憶は生々しく、夢であったとしたら不気味すぎる。
「ロー……ア、」
意思を持つ船、ローア。
この船なら何が真実か教えてくれるであろうか。
しかし、そのモニタは真っ暗で、無傷の、いやに疲弊した表情の自分が反射して映るのみだった。
***
そよそよと風は心地よく、陽光はぽかぽかと照らしてくれる。
いつも通りのプププランド、いつも通りのお昼寝日和。
そこに今日は率先してお昼寝するあの子はいない。
カービィは、秘境と呼ばれる場所にいた。
夢の泉。
ポップスターの住民に素敵な夢と安眠をお届けする、不思議なところ。
空のオーロラを下ろしてきて、その中に虹を溶かして、金平糖みたいなお星さまを散りばめたように輝く美しい泉。
真に望めば願いを叶えてくれるという、奇跡をも起こす。
湧き出す夢の水は無限に溢れ、カービィの足元まで至った。
煌めきが彼の身体に跳ね返る。
そこに、雫がひとつ。
月の雫ではなかった。
濃紺の夜空に金色の星が浮かぶ、カービィの瞳から落ちたもの。
「夢の泉、お願い……」
瞬いて、もう一粒。
「もう一度、ぼくのトモダチに逢わせて」
***
「……参っタナァ」
呟いてみるものの、誰に聞こえるわけでもない。
ローア内の照明は生きているものの、起動装置が働かない。
メインコンピュータがやられているとみてもいいだろう。
となると、どうすることもできなかった。
モニタも見れず外の様子を確認することはできないし、現地点が何処だか把握できない以上、直接外に出ることも危険極まりない。
闇雲に動くことさえもままならず、異空間かも分からないこの場所をローアと共に漂うしかないのだ。
「照明がつくッテコトは魔力供給はあるんダヨナァ……得体の知れナイ場所ジャないんダロウケド」
船体の揺れを感じるから少なくともこの船は地に底をつけてはいない。
そして、停滞しているのではなく、移動をしている。
つまりはいつか何処かの星に辿り着くかもしれない。
「……ッテ!気が長すぎルヨォ!あぁモウ……」
確かに以前は宛て処なく宇宙を彷徨っていたこともあったがそれとこれとではワケが違う。
閉じ込められているのとほぼ同義、そんなの真っ平だ。
記憶の真偽が曖昧なのも加わって、一先ずは現状を把握できる場所に腰を据えたい。
「ドコデモいいカラ地上に……ローアから出てモ大丈夫そうナトコロ……いっそハルカンドラでもイイヨォ……」
そう次々と願望を連ねると自分の真に望むものが浮かんでくる。
届かない願い。
「……カービィに会いタイナァ」
声に出して、その言葉が船内に反響して、耳に返って、漸く意識が追い付いた。
自分は今、何と。
「ククッ……情ケないヨォ……」
騙して、利用して、散々嘘を吐いて、傷付けて、傷付けられて。
そんな奴を求めて求めてやまないなんて。
可笑しくて涙が出てきた。
「会いたいヨォ、カービィ……」
なんて自分は弱いんだろう。
涙が次から次へと止まらない。
眠りから覚めたばかりだけれど、まるで悪夢を見ているようだった。
夢なら覚めろ、夢なら覚めろと何度も復唱しようと変わらない。
頬を抓って、痛くて、また涙が出た。
ボクの船は、それでも何かに流されるように動き続けた。
***
しんと静まり返った星夜の泉。
カービィはふと空を見上げた。
七色に煌めくオーロラが幾重にも折り重なって、花嫁のベールを纏った妖精が踊っているようだ。
カービィの瞳をそのまま映したみたいな細やかな星達が、お眠りなさいと子守唄を囁く。
その唄の間を縫って一閃の青白い流れ星。
「……流れ、星?」
カービィは“それ”に気が付いて思わず声をあげた。
次第に大きくなって、眠りから覚ますような音を響かせて遥か後方へーー落ちた。
すれ違う瞬間にカービィはそれを見ていた。分かっていた。
月の輝きを貰ったようにきらきらとした、神秘的な、船の形。
「マホロア……っ!!」
弾かれるように駆け出した、赤色の小さな足。
ワープスターに跳び乗って星の飛沫とともに、あの光が向かった先へ。
緑生い茂る、ベジタブルバレーへ。
to be continued......
2015/04/27
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