Bedürfnis

鏡を見る。
ただの金髪碧眼美少年。
何の変てつもない、ごく普通の男。
そうとしか鏡には写らない。

「ねえ」
「何です」

同じ部屋にいる黒髪の男、ジュンデに声をかける。
彼はいつもの笑み。
時に温かく感じるそれだが、今は無性に不気味だ。

「僕は、男?」
「今はそうでございましょう」
「そうだけど」

僕が明らかに不服そうな顔をすると、ジュンデは僕の背後に回る。
自分の後ろに誰かがいるのは嫌いだ。
だから離れろ、と言っても聞きやしない。
それはおろか、僕の耳元で、息がかかる程に近くで囁きかけてくる。

「それならば、どう答えれば宜しいのでしょうか坊ちゃん。そうですよ、と偽れば宜しかったのです?」
「ち、違う……やめろ」
「でしたら本当にどうすれば坊ちゃんの満足が行くのですか?女性と答えようにも坊ちゃんが“お嬢様”になったところを近頃拝見しておりませんし」
「違うの……ねえ、ジュンデ」

背後が怖い。
全てを知っておきながら頭の固いふりをする。
でも、僕に頼れるのは小さな頃からずっと彼だけ。
どんなに苦しくても痛くても、傍に居て大丈夫と囁いてくれたのも彼。
信頼してしまうというものだ。

「僕は、誰?」
「何を仰いますか。貴方様はラティアリス・ツヴィーシュパルト様ですよ」
「……もっと呼んで」
「どうなされたんですか、ラティアリス坊ちゃん」
「ずっとずっと僕の名前呼んで」
「……ラティアリス坊ちゃん」
「僕が女でも」
「ラティアリスお嬢様」
「どちらでもなくても」
「ラティアリス様」
「……僕は、ラティアリス?」

どんなにしつこい問答でもジュンデは答えてくれる。
ジュンデは耳元でふふっと笑う。

「ラティアリス様は、ラティアリス様です」

ラティアリス・ツヴィーシュパルト。
分裂、不和、葛藤の名。
男であって女である、そんな僕。
嫌な能力の持ち主。

それを認めて生きていかないといけないんだ。
僕は呪われたかな。

ある意味で諦めた人生。
それでも僕は。

「ジュンデは罪を背負ってるの?」
「そうでございますね……名の通りです」
「……そう」

僕は、ラティアリス。

異能でも生きるよ。
諦めたよ。ごめんね。

幻想月夢劇団団員ラティアリスの生きる理由。


お題:許されざる諦め 制限時間:30分


Thank you for reading!!

2013/03/28 執筆
2016/05/05 公開


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