クマさんのおはなし



ある森に、とても心優しいクマさんが住んでいました。
クマさんは、動物を食べるのがかわいそうで、いつもハチミツや木の実を食べていました。


クマさんには、お友だちがいません。というのも、小鳥もキツネもリスも、みんなクマさんを怖がって逃げてしまうからです。
「ぼくは、お友だちを食べたりしないのに…ちょっとだけ、おはなししたいだけなのに…」


そんなある日のことです。一羽のウサギがやってきて、クマさんに言いました。
「ぼくのお母さんを食べたのはおまえだな!」


クマさんは言いました。
「ぼくは、ウサギさんを食べたりはしないよ。でも、もしかしたら、それはぼくのお母さんかもしれない…」


泣きそうな顔で、クマさんは続けます。
「けど、ぼくのお母さんは猟師に撃たれて死んでしまったから、もういないんだ。だから、ぼくが代わりに謝るよ。きみのお母さんを食べてしまって、ごめんね…」


ウサギさんはびっくりしました。
「きみも、ひとりぼっちだったんだね。こっちこそ、ごめんね」


その日から、ふたりは大の仲良しになりました。


クマさんは、野いちごがたくさんある秘密の森へウサギを連れて行ってあげました。
ウサギは、自分で育てたじまんのニンジンをたくさんプレゼントしました。


ふたりで木の実を食べたり、お花ばたけでおしゃべりをするのが、いっとうしあわせな時間でした。


季節はめぐり、秋になりました。


「今日は、ドングリを集めにいこう!」
クマさんの提案で、ふたりはコナラの森へ出かけました。


するとそこには、泣いている人間の子どもがいました。


「どうして泣いているの?どこか、痛いの?」
ウサギは優しく声をかけます。


「おかあさんと、はぐれちゃったの」
子どもは言いました。
「おかあさん、おかあさんはどこにいるの?」


ポロポロ、涙はとめどなくあふれています。


「そんなに泣いたら、干からびちゃうよ。ぼくは大きくて目立つから、おかあさんを探すの、手伝ってあげる!」
クマさんは立ち上がるとこう言いました。


「きみを抱っこするから、おかあさんを見つけたらおしえてね」
クマさんは右手で子どもを、左手にはウサギを抱っこして、コナラの森を探し歩きます。


「クマさん、ウサギさん、ありがとう!」
子どもはすっかり泣き止み、嬉しそうに笑っています。


しばらく歩いていると、向こうから足音が聞こえてきました。
「おかあさんだ!おかあさーん!」
子どもは大きく手を振り、叫びました。


すると……


バーンッ と大きな音が響きました。
猟師がクマさんを撃った音です。


子どもとウサギを抱えたまま、クマさんは倒れてしまいました。


「きみ、大丈夫だったかい!?」


猟師さんが心配そうに駆け寄ってきます。
「怖かっただろう、ケガはしていないかい?向こうでお母さんが待ってるよ」


「怖くなかったよ!クマさんが、おかあさんを探してくれてたんだ!」


子どもは言います。
「とっても優しいクマさんだったのに!」


猟師に手を引かれながら、振り返ると
「ウサギさん、クマさんを治してあげて」
泣きながらそう言いました。


「クマくん、クマくん痛くないかい!?大丈夫、あっちの沢まで行けば、傷によく効く薬草が生えてるから!」
ウサギは必死に傷口を抑えます。


「だから、待ってて、すぐに戻って手当てするからね」


しかしクマさんは、ウサギの手を握って言いました。
「ぼくは、もうダメだよ。ウサギさん、ぼくと友だちになってくれて、ありがとう」


「少しの間でも、きみと過ごせて幸せだったよ。人間の子どもと仲良くなれたのも、とっても嬉しかった。だから、もういいんだ」


「けど、もし、生まれ変われるなら。今度はぼくも、ウサギがいいなあ。そうしたら、もっともっと、きみと遊べるのになあ」


そう言うとクマさんは、動かなくなってしまいました。


何度も何度も呼びかけても、返事はありませんでした。
ウサギはたくさん泣きました。


けれど、どれだけ泣いても、クマさんが目を開けることはありませんでした。


ウサギは小さな手で、何日もかかってクマさんのお墓をつくりました。


沢で拾った綺麗な石と、クマさんが好きだったりんごを、こんもりと盛り上がった小山におきました。


「クマくん、ぼく、待ってるからね。いつかまた、遊ぼうね」
いつの間にか、周りにはあかい花が咲き始めていました。


寒い寒い冬をこえ、春がやってきました。


ウサギはせっせとにんじんのお世話をしながら、思います。
「クマくんがウサギに生まれ変わったら、にんじんケーキを作ってあげよう」「大好きなはちみつを、たくさんかけてあげよう」


ウサギはいつまでも待ち続けます。
桜が散っても、入道雲が羊になっても、落ち葉のじゅうたんがかたくなっても、つもった雪が次の季節を呼んでも。


「また、会えたら、そのときは」



数えきれないほど同じ季節を繰り返したころ。
あの時の子どもが、大きくなって森へやってきたころ。


クマさんのお墓のとなりに、こんもりと、ちいさな小山ができていました。


そばには綺麗な小石と、にんじんと。
そしてまわりには、やっぱりあかい花が咲いていたのでした。


おしまい。


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