お隣のお家には、ツバメがいた。毎年軒下に巣を作っては、子を育て、そして巣立って行く。
いつからだろうか、愛らしい雛鳥の声は聞こえなくなっていた。巣があった痕跡ごと、何処かへ行ってしまった。

お隣のお家には、自動販売機がある。時々家主のおじさんが商品の補充をしていて、こっそりネクターの桃ジュースをくれた。
いつからだろうか、その役割はおばさんになり、見覚えのない若い男性になっていた。ネクターは、もうなかった。

お隣のおじさんは、とても優しく笑顔を絶やさない人だった。たった一度、3.11の時だけは、険しい表情を見せたが。
いつからだろうか、おじさんは車椅子になり、感情がすっかり落ちたような顔になっていた。挨拶さえ、交わせなくなった。

お隣の車が慌ただしい音を立てたのは、水曜日の真夜中だった。乱暴なドアの開閉、何かに急かされたようなエンジン音。
半刻か、はたまた四半刻か。まだ眠らぬうちに、今度は幾分落ち着いた様子で車は帰ってきた。

お隣のおじさんが亡くなった。


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