グレイヴズ・ウィーク


一人の男が丘の上にやって来た。
男は黒き翼を持つ悪魔だった。
丘の上にひっそりと立つ墓を、楽しげに鼻唄を歌いながら眺めた。


グレイヴズ・マンデー
双子の兄弟が生まれた
兄は祝福され、弟は凶星の運命に晒される
思えばここからが悲劇のハジマリ



悪魔は手にしたスコップで周りの土を掘り、墓石をどけようとした。


グレイヴズ・チューズデー
双子の兄弟は二人で生きる
兄は愛され、弟は虐げられた
それでも確かに絆は残っていたはずだった



しばらく掘ると墓石がぐらぐらと揺れた。
悪魔は嬉しそうに笑って墓を暴いた。
墓の下にはぽっかりと穴が空いていた。
そこには何もなかった。


グレイヴズ・ウェンズデー
双子の兄弟に暗い影が落ちた
兄は弟を疑い恐れ、弟は一心に兄を見詰める
狂い出した歯車は止まらない



空っぽの墓を見て悪魔はにんまり笑った。
墓の下に何があるかは問題ではなかった。
何故なら墓の下には何もないことを最初から知っていたからだった。
悪魔にとって、「墓荒らし」という行為こそが最も重要だった。


グレイヴズ・サースデー
双子の兄弟は決裂した
兄は弟を裏切り、弟は兄に裏切られる
絆とはかくも脆いものらしい



「やめろ」
声に反応して顔を上げると、悪魔の前に一人の青年が立っていた。
青年は真っ青な顔で悪魔を睨みつけていた。
期待通りの展開に悪魔は歓喜した。


グレイヴズ・フライデー
双子の兄弟は死に別れた
兄は弟に殺され、弟は兄を殺す
死して後も舞台は回り続ける



「……やめろ」
青年は耳を塞いだ。目をつぶって無惨な墓を見まいとした。
悪魔はよりいっそう歌声を張り上げ、目を閉じても見えるように青年の頭の中へ墓の光景を送り込んでやった。


グレイヴズ・サタデー
双子の兄弟は沈黙した
兄は冷たい土の中、弟は灼熱の大地の上
血塗られた道をひたすら駆ける



「やめてくれ」
青年は耐え切れず、地面に膝を着いた。
頭を抱えてぽろぽろ涙を流した。
悪魔はますます喜んだ。
そうだ、その顔を見たかったのだと悪魔の笑顔が語っていた。


グレイヴズ・サンデー
双子の兄弟は再び出会う
兄は死者として、弟は生者として
繰り返される悲劇、殺し合う運命



「ゆるしてくれ」
青年は泣きながらか細い声で懇願した。
けれども悪魔はそれに応えなかった。
悪魔は墓石を粉々に砕いて崖の下の海に捨てた。
後には土くれだけが残った。


そうして終わった一週間
残されたのは兄、消え去ったのは弟
墓の下には誰もいない、誰もいない
空っぽの墓になら何をしてもいいのさ
そこに意味など無いのだから



悪魔は一礼をして去っていった。
青年は墓の残骸に手を触れ、謝罪の言葉を何度も繰り返しながら泣き崩れた。
空っぽの墓が示すのは、死した者の消滅だった。

弔うべき遺体が無ければ墓など作りようもない。
しかし青年は墓を作った。
意味の無いものに意味を与えようとした結果がこれだった。

海の底に沈む墓石の欠片には、「デフテロス」という名が刻まれていた。
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