凍蝶02/跫音


「死ぬってどういうことだよ!」

真っ白な病室。窓から差し込む柔らかな光。すべてが穏やかな中で、星矢の声だけが鋭かった。
「死ぬとは、言葉通りの意味だ」
その怒りを孕んだ声に対し、紫龍は静かに答えた。死とは、死ぬこと。それ以外には何もない。
星矢がひどく傷ついたような顔をした。紫龍は瞳を閉じ、悲しい表情を見まいとした。普段の星矢からは想像もつかない、悲しみの小宇宙だった。その原因は自分にあるのだ。罪悪感が彼を襲う。

「なんでだ」
「自然の摂理」
「そうじゃない、オレが言いたいのは、なんでおまえなんだってこと」
「……分からない」

うなだれる紫龍の細い首筋を見て、星矢はやりきれない気分になった。あいつは、こんなに頼りない顔をしてる奴じゃない。困ったように笑いながらオレたちを見ていたあいつは、紫龍は、どこへ行った?
「でも」
どうしても目の前の現実を認めたくなくて、星矢は声を振り絞る。
「もしおまえの心臓が止まってもさ。オレが流星拳を心臓に打ち込めば、また動き出すんじゃないか? ほら、オレたちが最初に戦った、銀河戦争の時みたいに」
なぁ、そうだろう、紫龍。

信じていたい。彼とまた、馬鹿みたいに笑いあえる時が来るということを。
信じたくない。彼の心臓が、永遠に止まってしまう時が来るということを。

「…………すまない、星矢」
けれども、避けられぬ運命は訪れる。紫龍はそのことを痛いほど知っていた。だから、頑なに事実を否定しようとする星矢に謝ることしかできなかった。
「――っ!」
星矢が瞬間、呼吸を止めた。そして塞き止めた呼吸を吐き出すよりも先に、死を連想させる白の病室から逃げるように出て行った。走り去る背中は、声にならない声で、悲しみの叫びを繰り返していた。



(嘘でもいい。逝かないと、言ってくれ)





2009/02/03

跫音(きょうおん):足音


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