スマートじゃなくていい


※なにがなんでもリュウにスマホを持たせたいケンの話
※スマートフォンが普通に出てくるガバガバ時代設定


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「ねえねえリュウ、今日は僕にカラテ教えて!」
「ずるい!リュウと先に約束してたのはおれだぞ!」
「ほら喧嘩をするな、二人とも順番に教えてやるから」

村の子供達はやったあ!とはしゃぎ、リュウの両腕にしがみついてくる。仕方なく両腕を持ち上げてやると、ぶら下がった子供達は歓喜の声を上げた。ちょっとしたアトラクションだと思われている節がある。
この村に滞在して一週間が経つ。小さな村だが、旅人であるリュウにも友好的に接してくる住民ばかりだった。我も我もと群がってくる子供達の様子からも、人懐っこい気風が感じられる。居心地が良いし、もう少しここで過ごそうか――子供達に遊ばれながらそう思っていた時、遠くから叫び声がした。

「あっ!!あいつ……あいつじゃねえか!?道着姿の日本人!」

浅黒い肌の男が、リュウを指差しながらこちらに向かって駆けてくる。この村の人間ではないが、余所者という雰囲気は感じられない。麦藁帽子にタンクトップと半ズボンというラフないで立ちからして、おそらく近くの村の農民だろう。
何か用があるのだろうかとリュウは顔を上げるが、その男の背後に見えるものを目にして眉をひそめた。男の後ろから、二十人はいるであろう集団が迫ってきていた。どれも先頭の男と似たような風貌の農民らしき者達である。

「ああきっとアレだ!捕まえろ!」
「アイツを捕まえれば一攫千金!」
「絶対逃すなよ!!」

口々にそんな叫び声を上げながら、凄まじい形相でリュウめがけて突っ込んでくるのだった。――どうやら狙われているのは自分らしい。
村の子供達は「なにあれ!」と小さい悲鳴を上げてリュウの背後に回る。ここで逃げては子供達が危険だ。リュウは迎え討つ覚悟を決めて型を構えた。

「……お前達、俺に何の用だ」
静かに言い放つと、男たちは気圧されたように一歩後ずさった。しかし負けじと先頭の男が噛み付いてくる。
「用も何も、あんたをとっ捕まえろと仰せつかっていて!大人しく来てくれればありがたいんだが……」
「断る。……と言ったら?」
「そりゃあ引きずってでも連れてくさ!あんたに恨みはないが、生活のためだ!覚悟しな!」





――最後の一人を踵落としで倒したリュウは、自らが築き上げた死屍累々の山を冷静に見下ろした。
計二十四人いた男たちは、たった一人の格闘家相手に全滅した。

「すげえ……」
「リュウ、めっちゃ強いじゃん……!かっけえ……!」

建物の陰で観戦していた子供達は、きらきらした目でリュウに尊敬のまなざしを向ける。リュウの圧倒的な強さは子供達に強烈な憧れを抱かせた。
倒した男のうちの一人が、地面に倒れ伏したままぴくぴくと痙攣している。
無論、全員生きている。気絶して伸びているだけだ。相手はみな格闘の「か」の字も知らぬ素人だった。本当にただの農民だったのだろう。何者かに金で雇われ、リュウを捕獲するようにと命じられたに違いない。どれだけ数を揃えたところでリュウに敵うはずがなかった。問題は、彼等の雇い主が誰かということだ。

リュウは伸びている男の襟首を掴み上げ、自分と同じ目線の高さまで引き上げた。男は目を覚まして情けない声を上げた。
「ひ……っ!ひいい、お助け……」
「安心しろ、命は取らない。代わりに聞きたいことがある。……お前達は金で雇われた。違うか?」
「へ、へえ、その通りで……あんたをとっ捕まえて連れてくればデカい報酬がもらえるってんで、みんなこぞって捕まえに」
「その雇い主は誰だ」
「ええと……なんて言ったかな、何日か前アメリカから来たっていう……金髪で金持ちの兄ちゃんだよ」
「金髪で金持ちの兄ちゃん?」

リュウはおうむ返しにその言葉を呟いた。一瞬脳裏をよぎったのは他でもないあの顔である。いや、しかし、そんなはずはない。そうであってほしくはない。だが――挙げられた特徴から推測される人物は、やはり一つしか心当たりがなかった。

「ちょ、ちょ、締まってる締まってる!早く下ろしてくれ!」
男が首を絞め上げられた鶏のような声を上げた。無意識に力を込めすぎていたらしい。リュウは険しい顔のまま男の襟首から手を放した。ぐえ、と潰れた声を上げて男が地面に落ちたが、リュウには何も聞こえていない。彼の頭の中は疑念でいっぱいになっていたからだ。
――確かめなければならない。これが本当にあいつの差し金なのかどうかを。





襲撃者からの「伝言」を頼りにリュウが向かった先は、その都市で最も格が高いと言われているホテルだった。ホテルの外観を見た瞬間から、リュウはげんなりとせずにはいられなかった。こんな高級ホテルで待っている「金髪で金持ちの兄ちゃん」など、どう足掻いても一人しかいないではないか。
フロントにいたホテルマンは、リュウを見るや否や「あっ」と顔色を変えた。――例の客が来たぞ、ということだろう。すぐさま最上階のスイートルームに案内された。「ケン・マスターズ様がお待ちです」の一言と共に。

「久しぶりだな、リュウ。まあ座れよ」
部屋の主はそう言って、自身が座る椅子の向かい側の席を顎で指し示した。だがリュウはそれに応えず、突っ立ったままケンをねめつける。

「どうした、怖い顔して」
「……俺を呼び出すために、無関係の人々を巻き込むな」
「おいおい、人聞きが悪いな。使えるもんを使って何が悪い?オレは少ない労力でお前を探したい、あいつらは何が何でも金が欲しい。両方の望みが叶うwin-winのやり方だったろ?」
「そういう問題じゃない」

リュウはきっぱりと言い捨てた。彼にしては珍しく語気が荒い。ケンのやり方に納得できていないのだ。
久々の再会だというのに、二人を取り巻く空気は早々に険悪なものになってしまった。互いに静かな怒気を放っている。リュウは、ケンが無関係な市民を利用したことに怒り、そしてケンは――ケンはなぜ怒っている?
リュウの中に生じた疑問を察してか、ケンは鼻で笑った。やはりケンも何かに怒っている。だがその理由は皆目見当がつかない。

「オレがなんで怒ってるか分からないって顔だな。そもそも先にオレを怒らせたのはお前の方なんだ――リュウ、スマホ持ってるか」
「え?」

突然の問いにリュウは毒気を抜かれたような声を上げた。スマホ。聞き慣れない響きに首を傾げる。リュウのその反応を受けて、ケンは苛立ちを顕にした。
「そんなもの持っていたかなんて言わせねえぞ!?3ヶ月前にお前に持たせただろうが!……アレだよ、『いつでもどこでも電話とかネットできるやつ』!」
「……あ、ああ、アレか」
そこまで説明されてやっとリュウはその存在に思い至った。以前ケンに「失くしたら絶交だからな」と脅迫めいた言葉と共に押し付けられたのを覚えている。そこまで言われてはさすがに紛失するわけにはいかないと思い、きちんと持つようにしていたはずだった。
リュウは背負っていた背嚢を床に下ろすと、手を突っ込んでがさごそと中身を探し始めた。ケンは顔をひきつらせながらその様子を見ている。信じられない、という感情がありありと顔に出ていた。

「あったぞ、これだな」
リュウが探し当てたのは、紛れもなくケンに貰ったスマートフォンだった。道着の色と同じ白である。
どうだ失くさずに持っていただろう、と半ばドヤ顔めいてそのスマートフォンを掲げてみせるリュウだったが、その態度が逆にケンの神経を逆撫でしているとは夢にも思っていない。
ケンは普段よりもワントーン低い声で「電源は、」と言った。
「電源?」
「つけてみせろよ、電源。位置が分かんねえとか言うからダサいシール貼ってやっただろ」
「……ここか」

ケンに言われるまま、リュウは背面の電源と思しきボタンを押す。電源ボタンの上部には黄色い星型のシールが貼ってあった。リュウが何度教えられても電源ボタンの位置を覚えないので、痺れを切らしたケンがやけくそ気味に貼ってくれたものだった。そこまでしてもらっていながら、リュウはケンに言われるまで電源ボタンの位置をすっかり忘れていたのもまた事実である。
一度押したが、何の反応も無い。おかしいと思ってもう一度長押ししてみるが、やはりスマートフォンはうんともすんとも言わなかった。これではただの薄くて小さい板切れだ。リュウは眉根を寄せて何度も首を傾げた。

「おかしいぞケン、電源ボタンを押したのに何も出ない。壊れたのか?」
「――お前が!壊したんだろうがっ!!」

とうとう堪え切れなくなったケンが立ち上がって怒鳴り散らした。リュウは豆鉄砲を食らった鳩のように驚いた顔で固まる。

「お前がいつになっても世界中フラフラして面倒事に巻き込まれてやがるから!ちゃんと連絡取れるように!離れてても居場所が分かるように!スマホ持たせてやってんのに!なんで確認しないんだ!?携帯を携帯しないとかいうジョークは犬にでも食わせとけよ!?」

ケンはこれまでの苛立ちと鬱憤を全て晴らすように、早口で次々と捲し立てた。対するリュウはぽかんと口を開けている。何を言われているのか分からないという顔だ。
「いやまあ着信とかメールをチェックしないのは百歩譲って許すとしてもだ、どうしてこう毎回毎回壊す!?これで何度目だよ!?」
「確か……3台目か」
「いや4台目だ!お前は4台のスマホをパアにしてんだよ!その度に最新の頑丈なスマホを持たせてやってんのにお前ときたら……防水機能も耐衝撃機能も最高ランクの機種を選んだのになんで壊れるんだ!?え!?どうやって生活してたらそうなる!?」
「……村に来る前、川を越えたことはあったが」
「川を?……もちろん船に乗ってったんだろうな?」」
「いや、泳いで渡った。手持ちの金が無かったからな」
「泳いで??荷物ごと??」
「ああ」
「…………そこまで浸かっちゃ防水機能も意味ねえよなあ…………」

先程まで凄まじい剣幕で怒鳴っていたケンだが、急に意気消沈して椅子に倒れ込んだ。深い深い溜息が彼の口から漏れる。長い脚を床に投げ出し、顔を腕で覆った。この浮世離れした親友に文明の利器を活用させようと思うほうが間違いだったと認めざるを得ない。
ケンは顔を腕で隠したままうなだれた。

「お前のスマホのGPS信号が途絶えたって聞いて、また何かの事件に巻き込まれたんじゃないかと思うオレの身にもなれって……別にお前と電話とかメールしたいからスマホ持たせてるわけじゃないんだ、お前が世界のどこにいるのか、ちゃんと生きてるのか確認したくて、ただそれだけなんだよ……」

リュウは電源の入らないスマートフォンを手にしたまま、ケンを静かに見下ろした。
ケンが自分を心配してくれているのは分かる。それゆえにスマートフォンを持たせようとしているのだろうし、所在不明になったリュウを捜してわざわざアメリカからやって来たのだ。
だが、連絡が取れなくても、自分は健康体で生きている。事件に巻き込まれているわけでもない。そもそもスマートフォンがなかった頃は、何ヶ月、いや何年と音沙汰がなくても平気ではなかったか。きっとあいつは今も世界のどこかで闘っていると信じ、いつか再開できる日を心待ちにして。そうやってずっと生きてきた。

――便利な道具に振り回されて、心を擦り減らしているのはお前のほうじゃないのか、ケン。

そう言おうとしたが、やめた。偉そうなことを言える立場ではない。ケンを心配させていることに変わりはないのだ。掛ける言葉が思いつかずに視線を彷徨わせてしまう。
するとケンが不意に顔を上げた。
「……まあ、でも、コレがあれば全部解決するんだがな」
と言って懐から取り出したのは、リュウが壊したものとほぼ同じサイズのスマートフォンだった。色も同じ白。だが前のものよりもいくらか薄型だ。
ケンは背筋をぴんと伸ばし、手の中のスマートフォンをリュウに見せつける。先程までの意気消沈っぷりを吹き飛ばすかのごとく得意げに話し始めた。

「そうだよ、今までは既成品だったから、お前の無茶な使い方についてけなくて壊れた。だったらお前に合わせてスマホそのものを新しく作っちまえばいい。壊されない方法を探すんじゃなく、そもそも壊れないものを作ればよかったんだ。……このスマホ、神月のお嬢さんのとこと共同開発して作った特注品でな。軍事用で使われてる素材だから耐久性はピカイチだぜ。宇宙一頑丈なスマホだ、これならさすがのお前でも壊さないだろ」
「……あ、ああ、そうだな」

どこから突っ込みを入れればいいのか分からず、リュウは若干引き気味の返事をするに留まった。真面目な空気はどこかへと飛んでいってしまった。
リュウ専用のスマートフォンを開発しようという発想がまずおかしい。そして、リュウに壊されないスマートフォンを作るためにどれだけの投資をしたというのか。さすがに考えが及ばない。スケールが大きすぎる。もっとまともな金の使い所はなかったのか。
ケンはリュウに比べれば常識的な人間だが、時々おかしなところに固執するきらいがある。今回の件はその最たるものだと言えよう。ケンの謎の情熱に付き合わされたかりんには同情を禁じ得ない。

「喜べよリュウ、これでいつでもどこでも連絡取り放題だ!」
自信ありげに差し出されたスマートフォンを、リュウはじっと見つめた。リュウ自身としては、使い方もろくに分からず、ケンに余計な心労をかけさせる道具はあまり持ちたくないというのが本音だ。しかし、リュウのために用意したのだと語るケンの顔を見て、いらないなどと言えるだろうか。……無理だ。
そもそもケンにここまで心配されてしまっている自分にも非がある。4台のスマートフォンを葬ってきたこれまでの行動を反省した。ここは素直に受け取っておくべきだろう。

ケンの手から受け取ったスマートフォンは、思った以上に薄くて軽かった。宇宙一頑丈というのは本当なのだろうか。思わず何度も触ってその頑丈さを確かめようとしてしまう。
この薄くて軽い板さえあれば、世界中どこにいても、どんな時であっても、ケンと連絡を取り合うことができるのだ。無事に届くかどうかも分からない手紙のやり取りは必要なくなる。便利だ、そして確実だ。心配事など一つも生まれない。
だが――それを淋しいと思ってしまうのは、自分だけなのだろうか。

「リュウ?どうした?」
ケンが首を傾げて覗き込んでくる。それでもリュウはスマートフォンに目を落としたまま、ぽつりと呟いた。

「いや……お前と次に闘える日はいつなのかを考える時間も、ささやかな楽しみだったんだがな……」


――たとえば、一人で野宿をしている夜。星で埋め尽くされた空を見上げる時に思うこと。
ケンは今頃何をしているだろう。仕事の忙しさに追われて、目の回るような日々を送っているのだろうか。息抜きに外へ出て、ごろつきにストリートファイトでも吹っ掛けられているだろうか。ケンのことだ、きっと不敵な笑みを浮かべて威勢よく応じるに違いない。マスターズ財団の社長でも、全米格闘王でもなく、格闘家ケン・マスターズとして闘うのだ。リュウと闘う時のケンはいつだってそうだった。肩書きなど意味を成さず、ただ純粋に力と技をぶつけ合う。共に修行をしていた頃も、そして今も。
また闘いたいと思う。再会がいつになるのかは分からない。それでも、きっとまた会えると信じている。遠く空と海を隔てた場所でも、目指すものは同じだと分かっているからだ。同じ時を過ごし、拳を交わし合ったことで得た信頼が、確かにあった。


「…………!」
リュウの呟きを聞き届けたケンは、目を見開いて息を呑んだ。次の瞬間彼の脳裏をよぎったのは、リュウにスマートフォンを持たせようと思う前の記憶だった。
空を見上げて、リュウは今頃どこにいるのかと考えたこと。気まぐれに来るリュウからの手紙を心待ちにしていたこと。ケンもまた、リュウと再会できることをずっと楽しみにしていたのだ。遠く離れておいそれと会えないからこそ、再び闘える日を何よりも待ち望んでいた。

「……やっぱそれ、返せ」
「え」
「没収だ没収!」
ケンはリュウの手からスマートフォンを掠め取った。軽くて薄くて便利な板。
自分が安心したくて、リュウにもそれを持たせようとした。だが本当に大切なものは、いつでも気軽に連絡を取り合える手段ではなく、離れ離れの間も互いを信じ合う心の持ちようではないのか。彼の仕事にはもはや欠かせない道具だが、彼と彼の親友の間においては、きっと必要のないものだ。

リュウから没収したスマートフォンを頭上に放り投げる。スマートフォンは軽やかに宙を舞い――
「波動拳!」
轟音。衝撃。
某都市の最高級ホテルの最上階において、テロかと見紛う爆発が起こった。無論それはテロなどではなく、スイートルームの宿泊客が引き起こしたものである。都市の景観がよく見えるようにと張られた全面ガラスは派手な音を立てて割れ、部屋の調度品は衝撃波に巻き込まれて粉砕され、スイートルームはあっという間に風通しがよくなってしまった。
そして、ケンの放った渾身の必殺技によって、直撃を受けた宇宙一頑丈なスマートフォンは塵一つ残さず消えた。

一連のスムーズすぎる流れをその目で目撃したリュウは、ぽかんと口を開けていた。つい先程までその手の中にあったはずのスマートフォンの面影を探そうとするが、どこにも見当たらない。仕方ないので代わりにケンの横顔を見た。……心なしか、やけにすっきりとした表情をしている。

「ケン、お前何を……」
「……思い出したんだ。オレもお前と同じ気持ちでいたってことを」

ケンが目元をくしゃりとさせて笑うものだから、リュウは息を呑んで固まった。ケンのこの笑い方が好きだということを思い出して、しばらく見惚れてしまう。
だが、頬を撫でる風を受けてはっと我に返る。そうだ。感動的な雰囲気に呑まれている場合ではない。ケンが今しがた引き起こした惨事をどうするか考えなくては。ぼろぼろになった部屋を見渡して頭を抱える。

「……だからといってこれはやりすぎだぞ、ケン」
「そうか?弁償すりゃいいだろ」
「ホテルの迷惑を考えろと言ってるんだ。弁償だけじゃなくてちゃんと誠意も見せろ。俺も一緒に謝ってやるから」
「……そのセリフ、なんか懐かしいな。オレが師匠の頭に落書きした時も同じようなこと言ってたろ」
「なぜ今その話題が出てくる……?」

あれはいつのことだったか。まだ成長期に入る前だったと思う。剛拳師匠が昼寝をしている隙に、ケンがその額に筆で落書きをしたのだ。リュウは必死で止めようとはしていたが、落書きを見て笑い声を堪えていたのだから同罪だとケンは言う。結局二人揃ってこっぴどく怒られた記憶は未だに鮮明だ。
急に懐かしい気持ちになって、二人は耐えきれず吹き出した。顔を突き合わせて笑う。昔に戻ったような錯覚を覚えた。

ホテルの最上階のスイートルーム、破壊されてやけに風通しがよくなったその場所で、彼等は悪戯が成功した子供のようにいつまでも笑い合っていた。




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2019/01/27


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