蜘蛛の糸


言葉を尽くして想いを紡げたなら手紙を書いただろう。絵筆を取り数え切れない色を使って気持ちを表現できたなら絵を描いただろう。
しかし、彼には音しかなかった。
音の命は短い。心の内側で響く音は誰にも聞かせることができず、スピーカー越しの音は既に息絶えている。だから曲を書いた。心の波を音に乗せ、その想いが歌声となった瞬間すべてが伝わるように。

自分この世界にいた証すらも全て取り去って何も残さずに消えようとした彼が、たったひとつ諦めきれずに残したもの。
蜘蛛の糸よりも細く微かで頼りない、だけど確かに繋がっている。
糸の先にいるのは、彼が愛した片割れでも、その恋人でも親友でもない。……一ノ瀬トキヤ、だった。






(砂トキ小説「迎えに行くから月で待ってて」の砂月視点のつもり

「彼が愛した片割れ」=那月
「その恋人」=春歌
「親友」=翔)


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