僕から君へ、君から僕へ


「それじゃあ、よろしくね!」

小さな紙片を託された黒猫は、にゃあんと鳴いてその指命を全うすべく学園内を駆け抜ける。

黒猫が真っ先に見つけたのは心優しい少女だった。
「あら?クップル、その口にくわえているのは何?」
少女の質問に、黒猫は紙片を渡すことで答える。紙片を手にした少女は不思議そうに首を傾げた。
「…これを次の人に?」
はいその通り、とばかりに黒猫は嬉しそうに鳴いた。

黒猫から役目を引き継ぎ、少女は近くにいたクラスメイトに声をかける。

「一十木くん、ちょっといいですか?」
「どしたの七海」
「ええと…、」

「よー友千香!」
「あっ音也じゃん。何か用?」
「うん、七海から頼まれたんだけどさ…」

「まさやんまさやん!」
「…む。渋谷か。どうした」
「実はまさやんに折り入ってお願いが…」

「…神宮寺」
「…何の用だ聖川」
「別に俺は貴様に用があるわけではない」
「じゃあ話かけるなよ」
「違う。俺ではなく七海と一十木と渋谷がお前に用があるのだ」
「…は?」

「――そういうことらしい。引き受けてくれるかい、シノミー?」
「もちろんですよお!こういうの、なんだかワクワクしちゃいますね!」
「ま、チームワークは大事だよね」

「翔ちゃーん!!」
「なっ那月!?また新しいお菓子でも作ったか!?」
「違いますよお、楽しい楽しいゲームです!」
「なんだそれ」

「……だってよ」
「……それを、あの人に伝えろと?私が?」
「そんな嫌そうな顔するなよ。お前がアンカーなんだから仕方ねえだろ」
「まさかこれが課題ですか」
「そうかもしれないし、ただの遊びかもしれない」
「…分からないなら、やるしかありませんね」
「後は任せた!」

そして伝言ゲームのアンカーは、渋々ながらも最終到達地点に向けて歩き出す。
たった一言を伝えるために。

「愛してる」
「はぁ?」
「…だ、そうです」
「び、びっくりさせやがって…何なんだいきなり。もしかして罰ゲームか?」
「まあ似たようなものです。先程のメッセージを日向先生に伝えよ、と」
「わけが分からん」
「まったくです」

さて、当初の目的は果たされたものの、これで終わりとはまだいかない。
人から人へと繋がるメッセージ、終着地点にいる二人。

「おはやっぷー龍也☆アタシのラブメッセージ届いた?」
「…やっぱりお前の差し金だったのか…遊びに生徒を巻き込むな」
「なによ、嬉しいくせに〜」
「…ああいう言葉は口で直接伝えるもんだぜ?」
「フフ、知ってる」


一枚の紙片から始まった長い旅は、耳元で囁かれた甘い言葉を最後として幕を閉じる。
戯れこそが、彼等の平穏をありありと映し出す鏡であった。


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