春告げ鳥が愛を鳴く


「僭越ながら、泰衡様」
深く、深く、頭を垂れる。絶対的な忠誠の証。

「私にはあなたの意志を変える程の力は無く、また変える気もありません。たとえその道が、濁世の者達にとって『非情』あるいは『冷徹』と映ろうとも、あなたはあなたの信じる道をお進みになってください。
あの日、うつろな私を拾い上げていただいた時から、私の心は決まっています。
あなたを害するこの世の一切を、己が身に引き受けること。何よりも気高く美しいその身を守り、降り注ぐ矢を防ぐ盾となること。
私は、それこそが、あなたに救われたこの命の使い道だと思うのです」

返答は無い。束の間の沈黙が流れる。やがてあなたは小さな声で呟いた。

「……当たり前だ」

顔を上げる。見上げた先には常と変わらない無表情があった。
だが、私には分かる。私以外には誰ひとりとして気付かぬであろう変化。あなたの無表情はほんの少しだけ崩れ、白い貌には仄かに朱が差している。それだけで充分だった。無表情の中の表情を垣間見ることができたのだから。

「泰衡様」

立ち上がり、あなたの視線を掬い上げた。漆黒の瞳にはどのような私が映っているのだろう。
あなたは呆気なく私の腕に身を委ねてきた。微かな白檀の香が鼻を掠める。骨張った痩身、絹のような黒髪、触れ合った部分から伝わる体温、規則正しく命の時間を刻む鼓動。私の望む全てがここにあった。
耳元に唇を寄せ、あなたにしか聞こえないように囁いた。

「私は、あなたを愛しています」





2010/06/19


[ index > home > menu ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -