クリアネスマインド


「空を飛ぶ鳥が自由だなんて、一体誰が言い出したことなんだろうね」

彼の腕に抱かれたコアルヒーが不思議そうに首を傾げた。そんなこと聞かれても、といった表情だ。彼もその問いに答えがあるとは考えていないのだろう、コアルヒーを撫でて笑うだけに留まった。

「キミは空を飛べるけど、必ずしも絶対の自由を約束されているわけじゃない。広い空に羽ばたく自由と引き換えに失ったものもあるだろう?
羽を休める枝もなく、ただひたすら飛び続けなければいけないのであれば、それはもはや自由と呼べない」

「前に進む自由は時に不自由を生む。立ち止まることも、振り返ることも許されない不自由を」

果たして、その言葉は誰に向けたものなのか。彼はいつだって、ポケモンに語りかけるという形を取りながら、そこにはいない誰かに向けて言葉を綴る。まるで宛名の無い手紙のように。

「自由だと思い込むことそのものが不自由であり、不自由を自覚してそこからの脱却を望む意志の強さが自由に繋がる。
……でも、本質がどうであれ、置かれている環境を自由と喜ぶか不自由と嘆くかは、結局のところ自分自身の価値判断と定義次第だ。
たとえ狭い鳥籠に閉じ込められていても、十分な食べ物を与えられ身の安全が保証されていることを自由と定義するなら、それはその者にとっての自由となり得るだろうし、逆もしかりだ。広い空を飛び回れても、共に旅をする仲間がいない寂しさは孤独という名の不自由を生む。
だから、と彼は続けた。

「みんなボクに対して、可哀相だとか不自由だったろうにだとか言って同情してくれるけど、ボク自身は一度も自分が可哀相だとも不自由だとも思ったことがないんだ。
痛みや悲しみをそう評価されるのは一般的な感覚として当然だと思う。でも、その評価を受け入れてしまったら、ボクを作り上げている今までの記憶や経験まで否定することになる。
……ねえ、キミもボクを可哀相だと思うかい?」

彼が自嘲ぎみに問い掛けると、コアルヒーはとぼけた顔で数回瞬きをして青い翼を羽ばたかせた。その反応を見て彼は肩の力を抜いた。

「キミは正直だね。そうだよ、今のボクは毎日を生きるのに喜びを感じている。……ボクがどの空を飛んでいても、全速力で走って追いかけてくれる人に会えたから」

彼は立ち上がり、話し相手になってくれたコアルヒーに礼を言った。そして傍らの木陰で休んでいた純白のドラゴンポケモンを呼ぶ。少しばかり休憩に時間を取りすぎた。早くこの場を離れなくては、またあの少年に見つかってしまう。

「さあ行こうかレシラム。ボクはまだ、この追いかけっこを終わらせる気はないからね」

彼の横顔は、ひどく楽しげだった。





2011/03/23


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