恋でも愛でも好きに呼べ


「…………」
ゆっくりと唇が離れた。吐息がかかりそうな距離で二人はしばらく見つめ合っていた。互いにまだ夢見心地だった。ようやく想いを交し合えたわけだが、まだその実感が湧かない。
不意に砂月が視線を逸らした。
「……お前、今日はもう帰れ」
「え」
思いがけずトキヤは驚きの声を上げてしまった。そこには、名残惜しさや期待はずれの響きが含まれていた。
――この「続き」は?
喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。すると、砂月は気まずそうに眉間に皺を寄せた。
「お互い……準備とか、いろいろあるだろ」
「あ……そう、ですね……」
もう完全に「その気」になっていて、そこまで思い至らなかった。砂月の方がよほど冷静だ。これではまるで自分が欲求不満のようではないか。否定のしようもないけれど。トキヤは、自覚していた以上に砂月を求めている自分に気付いて俯いた。顔が熱い。視線だけ上に上げると、砂月もまた顔を赤くしていた。

「でも……それ、どうするんですか」
トキヤがおずおずと視線を下に向ける。体を密着させているので嫌でも分かる。存在感が強すぎて無視もできない。……さっきからずっと当たっている、「それ」。
「…………」
砂月は黙った。ついさっき、トキヤをめちゃくちゃにしてやりたいという告白をしてしまった以上言い逃れもできず、黙るしかない。歯切れの悪い舌打ちをした。
「……自分でなんとかする。いいからお前は早く帰れ」
「でも」
「なんだよ」
「……私も、なんですけど……」

俯き、きまり悪そうな顔でトキヤがもじもじと脚を動かす。……なるほど。砂月は自分のことで手一杯だったので気付くのが遅れたが、確かにトキヤもそこを固くしているのが分かった。互いにどうしようもなく興奮している。こんな昂りを抱えたまま部屋に戻ることなどできそうにない。砂月は一人部屋だからいいものの、トキヤの部屋には音也がいる。ぐっすり寝ている頃とはいえ気付かれたくはない。問い詰められたら非常に面倒だ。
ぐるぐると頭の中でリスクを天秤にかけてみるが、熱に浮かされた頭ではまともに思考が働かなかった。だから、普段は決して考え付かないようなことも口から零れてしまう。

「……抜いてあげることなら、できますよ?」

上目遣いで見上げると、衝撃で表情を失った砂月と目が合った。正気か?と問いかけられているような気がする。正気なわけがない。でも、それでよかった。




「……はっ、ぁ……」
「んっ……くぅっ……」
くちゅくちゅと水音が響くたび、二人は身を捩らせて熱い息を吐いた。ベッドの上で向かい合い、下半身を丸出しにして、互いの性器を握り合っている。どうしてこんなことになった。いや、こうすることを選んだのは自分だ。
知らない手が自分のそこを握っている。他人にこんな場所を晒すのも、まして触れることを許すのも初めてだった。向こうのタイミングで上下に動かされると調子が狂う。頭ごとかき混ぜられるような気がする。何もかも知らない感覚だった。

「あっ……んんっ……そこ……」
砂月の節くれだった長い指が動くと、トキヤは肩を震わせて声を上げた。視界の端で星がちかちかと舞う。たまらず砂月の肩に頭を乗せた。
対する砂月も余裕はあまり無いようで、眉間に皺を寄せたまま浅く呼吸をしている。トキヤの手のひらの中でまた質量が増した。

「砂月……身長、いくつでしたっけ……」
「……186」
「ひゃくはちじゅうろく……」
おうむ返しに言って、トキヤは「はは」と乾いた笑いを浮かべた。その身長ならこのサイズも納得がいく。こんなとんでもないものを抱えて今まで悶々としていたのかと思うと、砂月の自制心には感嘆しかない。そしてゆくゆくは「これ」が自分の中に入るのだ。……本当に?
想像がつかなくて脳が萎縮する。こんなものを入れられるわけがない。無理やり入れたらそれこそ壊れてしまうのではないだろうか。尻が裂けてアイドルデビュー断念、なんて笑いごとではない。

「……おい。余計なこと考えんな」
「ひゃう……っ!?」
砂月に握り込まれて体が跳ねる。砂月は相変わらずのしかめっ面だった。トキヤが意識をよそに飛ばしていたのが気に食わないのだろう、緩急をつけてトキヤを追い込んでいく。
「あっ……、ちょっと、待って……っ!」
「待たねえ」
手の動きが激しさを増して、トキヤは喉をひくつかせた。やられてばかりではいけない。負けじと砂月のそれを握り返してやる。そっちが激しく行くならこっちは繊細な指の動きで勝負だ、と言わんばかりに指を動かす。砂月が耐えかねて息を吐く。互いに限界が近かった。

「さつき、私、もうっ……!」
「ああ……っ!」
より体を密着させ、目をぎゅっと瞑る。暗闇の中でひときわ大きな星が弾けた。




自分の部屋の扉を開けたトキヤは、慎重に中の様子を窺った。耳を澄ますと音也の気持ちよさそうな寝息が聞こえる。ぐっすり眠っているらしい。ほっと一息ついて、音也を起こさないように忍び足で中へ入った。扉を閉じると、トキヤはそのまま扉に背を預けてずるずると床にへたり込んだ。
「うう……」
体育座りをして頭を抱える。今更になって全身が火を噴くように熱くなった。ようやく誤解が解けて、告白できたのは素直に喜ばしい。ずっとこの日を待っていたように思う。それはそれとして――目の前には「次」の段階が待ち受けている。そして既にその一段目は上ってしまった。浮かれているにも程がある。今にもその階段を飛び越してしまいたい気持ちと、足がすくんで動けない臆病な気持ちの二つがせめぎ合っていた。

――あなたも、こんな気持ちだったんですか?
問いかけてみても返事はない。つい先程触れ合っていた熱を思い出して、トキヤはまた顔を赤くした。


◆◆◆


「よーっす、レン」
「あ、おはようおチビちゃん」
ホームルーム前のSクラスの教室は、話し声でざわざわと騒がしい。
「珍しいな。お前、ここ数日ずっと朝からいるじゃん」
翔は意外そうな顔でレンを見た。レンは朝に弱いらしく、普段は遅刻の常習犯なのだ。その彼が最近はきちんとホームルームが始まる前に教室に来ている。
「……まあ、愛の伝道師として、責任もって見届けなくちゃいけないと思ってね」
「はあ?……あー……」
どういうことだ?と一度首を傾げるが、レンの視線の先に気付いて、翔は納得したように頷いた。レンが見ているのはトキヤの後ろ姿だった。椅子に座って教科書を読んでいる。今日の予習でもしているのだろう。

トキヤと砂月の様子がおかしいのは翔も気付いていた。両片想いのふわふわした関係が続いていたかと思ったら、ここ数日でいきなり砂月がトキヤを無視し始めたのだ。心当たりはあるのかとトキヤに尋ねたら「あると思いますか!?」と逆に怒りながら訊き返された。原因は分からないが、砂月が一方的にトキヤを避けているらしい。レンはそんな二人が心配で見守っているということだろう。
今日はいつ登場すんのかな、と思っていたら、教室のドアがゆっくり開いた。砂月だ。またトキヤを無視するのだろうか。
翔とレンが緊張の面持ちで砂月を見ていると、砂月はつかつかとトキヤの席に向かっていった。

「……おはよう」
「おはようございます、砂月」

朝の挨拶を、した。
翔とレンが顔を見合わせる。昨日までとは明らかに態度が違う。砂月とトキヤは何やら気まずそうに見つめ合っていたが、少しだけ言葉を交わした。翔たちがいる席からは二人が何を話したのかまでは聞き取れなかったが、いつもの喧嘩とか嫌味の類ではなさそうなのは分かる。

「あいつら、また普通に戻ったのか?昨日まで砂月の方がめちゃくちゃ無視しまくってたのに」
「そうみたいだね……」
「うわっこっち来た!」

ひそひそ話をしている間に、トキヤの席から離れた砂月がこちらへと向かってきた。翔は本能的に危機を察知してレンの背中に隠れる。だが、砂月の目的は翔ではなくレンの方だった。まっすぐにレンの席へ歩みを進め、止まる。
砂月は相変わらずのしかめっ面だが、今日はいつもの不機嫌さが薄れているような気がした。それどころか彼の纏う空気はどこか柔らかい。

「やあシノミー。今日はなんだか機嫌がよさそうだね?」
「…………」
すると砂月は無言で右手を上げた。張り手でも飛んでくるのかと身構えたが、その手のひらは空中で静止している。さしものレンも砂月の意図を汲み取ることができなかった。
「え、何?」
「手」
「手?」
レンも見よう見まねで同じように右手を上げると、二人の手がパチンと重なった。片手でのハイタッチだった。
レンの背後で、翔が驚きで目を丸くした。当事者のレンも二度三度と瞬きをする。状況が飲み込みきれず固まってしまう。砂月に目をやると、砂月は表情こそ変えていないが、発するオーラがほわほわしている。ほわほわ。まるでたんぽぽの綿毛のような。

「……あー……もしかして、うまくいった?」
レンが恐る恐る尋ねると、今度は無言で親指を立てた。その通りでございます、という意味だ。ほわほわしたオーラが更に広がる。四ノ宮砂月にあるまじき反応だ。この柔らかさは、双子の兄の那月が纏うそれと似ている。
「そっか、おめでとうシノミー!何があったか教えてよ」
「あとでな」

ちゃっかり通じ合った二人をよそに、翔は目を白黒させている。何が起こっているのか理解できないという顔だ。意を決してレンの背中から顔を出す。
「ちょ、ちょっと待てお前ら!いつの間にそんな仲良くなってたんだよ!?」
翔が混乱したように二人を交互に見比べる。するとレンは自慢げに鼻を鳴らした。
「それはもう、オレとシノミーは恋バナをした仲だからねえ」
「は?嘘つけ、恋愛相談とかこいつがするわけ……」

慌てて翔は砂月を見る。いかにもプライドが高そうな砂月が、他人に、しかもよりによってレンに「恋バナ」をするなど考えられなかったのだ。
だが、砂月は何も言わなかった。レンが根も葉もない話をでっち上げているなら、すぐにでも制裁が入るはずだ。しかしそれがない。無言の肯定だった。それどころか「世話になったな」くらいの顔をしている。
「マ……マジか……」
自分の知らないところで予想外の事態が起こっていたことに翔は衝撃を受けた。砂月とトキヤがいつの間にか仲直りしていたらしいことも、レンが砂月の恋愛相談に乗っていたことも、知らない。だが深く知ろうものなら余計な面倒事が起こりそうだ。「どんな話したか教えてあげよっか」と笑いながら言うレンに、翔は丁重にお断りの言葉を述べた。






なんだか、落ち着かない。ふわふわしている。熱でもあるのかと自分の額に手を当ててみるが、熱の気配はない。つまり気持ちの問題だ。
その心当たりは十分すぎるほどあったので、トキヤは口を手で覆って俯くしかなかった。
ここのところ砂月のことばかり考えている。授業中でも休み時間でも。そしてずっと無視されていた反動なのか、やたらと目が合うようになった。トキヤが砂月を見ている分、砂月もトキヤを見ているらしい。前と違うのは、目が合っても逸らされることはなく、「しょうがねえな」とでも言うようにふっと笑いかけられるようになった。その笑顔にくすぐったさを感じてまた体温が上がる。おかしい。こんなはずではなかった。砂月の一挙手一投足に心を振り回されている。

廊下を歩いていると、「おい」と聞き慣れた声に呼び止められた。砂月がこちらを見ていた。
手招きされるままに階段の踊り場まで付いていく。あまり使われていない階段だった。
「……お前、今週の日曜空いてるか」
おもむろにそう切り出されて、トキヤは目を瞬かせた。
「空いてますけど」
「じゃあ、……これ、どうだ」

差し出された二枚の紙切れに視線を落とす。国内の楽団の定期演奏会のチケットだった。聞けば、那月が知り合いからもらったらしい。「ちょうどその日は翔ちゃんと遊びに行くことになっていて」とのことで、砂月に渡ったのだという。……砂月の口ぶりのたどたどしさからして、どこまで事実かは分からないが。
「その演奏会、私も気になっていました」
「じゃあ」
「でもひとつだけ、質問が」
意を決してトキヤは砂月を見上げた。珍しく砂月が動揺している。断られると思っているのだろうか。――違いますよ。私が訊きたいのは、

「……これは、デートということですか?」

砂月が固まった。どう見たってデートの誘い以外の何物でもなく、トキヤとてそれは十二分に察しているが、ここできちんとはっきりさせておかなければならないと思ったのだ。自分達は今「お付き合い」をしていて、「恋人同士」であって、それゆえにこれは「デート」であると。ふわふわとした曖昧な空気はそれはそれで心地よいものではあったが、いつまでもそれに浸かっているわけにはいかない。先に進みたいという気持ちがあるなら尚更。砂月から踏み出された一歩を、トキヤは誠実に確かめなければならなかった。

砂月は硬直したまま、トキヤからの思いがけない問いに言葉を失っていた。トキヤが敢えて訊いてきたのは分かっていた。意志の所在を確かめられている。
こんなのは柄じゃない。レンのようにもっと堂々と誘えればよかったのだろうが、プライドが邪魔をしてうまい言い回しが出てこない。
つい、いつもの口癖で「好きにしろ」と言いかけたが、やめた。

「……そうだよ」

小さい声で呟いた。我ながらあまりにも自信のない声だった。呆れられただろうかと思ってトキヤを見ると、トキヤは何度か瞬きをしたあと「それなら、よかった」と漏らした。思いの外嬉しそうな声だった。声だけではない。目尻は緩み、唇もほわほわと溶けている。「イッチー、すぐ顔に出るから分かりやすいんだよねえ」というレンの言葉を思い出した。確かにこれは、分かりやすい。砂月でさえ分かる。トキヤは、砂月に「デート」に誘われて嬉しそうにしている。
静かに頬を染めるトキヤを見て――かわいいと、思ってしまった。

ちゅっ

ポケットに手を入れたまま、ほんの少し腰をかがめて、触れるだけのキスをした。一瞬の出来事だった。
トキヤが目を見開いて長い睫毛を何度も上下に動かす。そんな様子すらもかわいく思えて二度目のキスをしそうになるが、すんでのところで思いとどまった。トキヤが状況を飲み込めないでいるうちに踵を返す。
「またな」
背後で、トキヤがどすんと背中を壁にぶつける音が聞こえた。





当日、砂月は珍しく早起きをして、てきぱきと朝の準備を済ませた。今日はデートだ。しかも自分から誘ったのだ、遅れるわけにはいかない。
今回は会場に現地集合することになっていた。寮から二人一緒に出発するのはさすがにまずいだろうというのだ。一応、恋愛禁止という名目を守ろうという気はあるらしい。今更そんなものを律儀に守ろうとする意味はあるのかとも思ったが、トキヤが頑ななので折れてやった。

開場時刻よりも早く待ち合わせしていたのだが、会場周辺は既に多くの人々でごった返していた。人混みに砂月は眉をしかめたが、探していた人物は案外すぐに見つかった。すらっとした長身に、目を引く容姿。四ノ宮砂月の恋人は、人混みでも際立つ存在感を放っていた。

「悪い、遅れた」
「いえ、約束の時間より前ですよ。私が早く来すぎたんです」

珍しいな、と砂月は首を傾げた。目の前にいるトキヤは、私服に黒縁の眼鏡をかけただけの格好だった。
以前二人で福岡に旅行に行ったときには、トキヤはもっと厳重に変装していた。帽子にサングラス、そしてマスクもしていたように思う。あの時はHAYATOの問題でトラブルの渦中にあったからというのもあるが、それにしても今日のトキヤはガードが緩すぎはしないか。服装だけではなくて、纏う雰囲気もそうだ。人に気付かれないようにと神経を尖らせる様子もなく、学園にいる時のような自然体で砂月に笑いかけている。

――デート、だからか。

その理由に思い至って、砂月ははっとした。変装を最低限に留めているのは、顔がよく見えるようにするため。気配を消さずにいたのは、砂月にすぐ見つけてもらうため。街に出ても人目を気にせずに振る舞えるのは、砂月が隣にいるから。
「……っ」
砂月は自分の内側に生まれた感情を無言で噛み締めた。今すぐにキスをしなかっただけでも褒めてもらいたいくらいだ。
トキヤは訝しげに「砂月?」と声をかけてくる。砂月の思いなど知りもしないで。長い一日になりそうだ、と天を仰いだ。




オーケストラの定期演奏会の内容は、なかなかよかったと思う。まるで他人事のような評になってしまうのは、隣に座る一ノ瀬トキヤが気になって演奏に集中できなかったからだ。
軽快なリズムに合わせて指で膝をトントンと叩くところとか、トロンボーンのソロパートに目を輝かせる様子とか、物悲しい旋律にしんみりと聴き入る横顔とか、とにかくいちいち反応が新鮮で飽きない。こんなに表情がころころ変わる人間だとは思わなかった。トキヤは演奏に熱中していたから、砂月が横目でちらちらと見ていたのには気付かれていないだろう。

「良い演奏でしたね。来てよかったです」
「お、おう」

トキヤが感想をつらつらと述べている間にも、砂月は曖昧な相槌ばかり打っていた。「ちゃんと聴いていたんですか?」と訝られて即座に否定できなかった。お前の顔を見るので手一杯だった、なんて言えるわけもない。
昼食は、那月が教えてくれたカフェに入ることにした。砂月がそこまでプランを用意していたとは思わなかったのだろう、トキヤは「そうですか」と驚いた様子だったが、何も文句は言わなかった。砂月の目の前に運ばれてきたパンケーキの皿を見て、「うっ」と呻き声を上げはしたが。

「よくランチでそんな甘いものを食べられますね……」
「糖分を取らないと頭が働かねえだろ」
「そういう問題ではないと思いますが……」

パンケーキの上にこれでもかと山盛りにされたホイップクリームをもう一度見て、トキヤはまた声にならない呻き声を上げた。
「別にお前が食べるんじゃないんだからいいだろ」
気にせず砂月はホイップクリームをスプーンで掬い上げる。口に放り込めば、脳に突き刺さるような甘い甘い味がした。今の砂月にはこれくらい甘ったるい方がちょうどいい。
砂月の向かい側では、トキヤが野菜たっぷりのガレットをちまちまと口に運んでいる。一瞬、ホイップクリームをその小さい口に突っ込んでやろうかとも思ったが、今日一日口をきいてもらえなくなりそうなのでやめておいた。




ガレットのカロリーが気になったのだろう、店を出るとトキヤが「腹ごなしに少し歩きたい」と言い出してきた。断る理由もなかったので、少し離れた場所にある公園に行くことになった。
公園では、遊具で遊ぶ家族や、フリスビーをする子供たちなどが思い思いに過ごしていた。芝生で転げ回る子供を横目に見ながら、二人は銀杏並木を黙々と歩いた。12月に入って、イチョウの葉はもう半分以上落ちていた。道は黄色い絨毯のようだった。
くしゅん、と砂月の隣でトキヤが小さくくしゃみをした。見れば鼻先が少し赤くなっている。トキヤは顔の前で指先を擦り合わせた。砂月は北海道の生まれなので寒さには強いが、トキヤは逆に弱いらしい。それならもっと厚着をしてくればよかったろうに。マフラーや手袋でもあれば貸してやれたのだが、生憎と持ち合わせはない。

「……手でも繋ぐか?」
砂月は冗談めかして言った。トキヤがそれに応じることなどないと分かっていて、茶化すように自分の手のひらを差し出す。いつものように「ふざけないでください!」という反応が返ってくることを想像していたのだが、待てど暮らせどトキヤの怒った声は聞こえてこなかった。
トキヤが急に立ち止まったので、砂月も歩くのをやめた。引っ込みがつかなくなった手を宙ぶらりんにしたまま。俯いているトキヤの顔を覗き込むと、トキヤは顔を赤くして、こくり、と頷いた。

「……ええ」
耳まで赤くなっているのは寒さだけのせいではない。
「……いいのか」
「あなたが言ってきたんでしょう」
少し笑って、トキヤは砂月の手を取った。手のひらが重なり合い、指を絡め合う。冷えた指先は徐々に温かくなっていった。繋いだ手から互いの体温が溶けていく。
さくさくと銀杏の葉を踏みしめながら、二人は黙って歩いた。その温かさを少しも取りこぼさないように。足は自然と人通りの少ない道へと向かっていた。人目につくのを避けたかったわけではない。この姿を誰かに見られるのは勿体ないと思ったからだ。二人だけでこの空気を感じていたかった。
「……砂月」
ふと、トキヤが砂月の名前を呼んだ。砂月は返事の代わりに手を握り返す。

「今夜、あなたの部屋に行ってもいいですか?」

秘め事のように、トキヤは言った。
その意味を知らない砂月ではない。繋いだ手の温度が更に上がっていくような錯覚をおぼえる。
「………………ああ。待ってる」
たった一言、それだけを絞り出した。隣でトキヤが安堵したような息を漏らす。心臓の鼓動が大きくなっていくのを感じた。


◆◆◆


その日の夜は戦いだった。いつもより早い時間に夕食を作って音也に食べさせる。いつもは絶対作らないような、炭水化物多めの血糖値爆上がりメニューだ。音也は「こんなにすごいの食べていいの!?」と目を輝かせながらいい食べっぷりを見せ、案の定すぐに目をしょぼしょぼとさせた。
「お腹いっぱいでねむい……」
「いいでしょう、もうお風呂は沸かしてありますよ」
「準備いいねトキヤ……」
促されるまま音也は風呂を済ませ、ベッドに直行した。子守唄でも歌ってあげましょうかと言ったらさすがに気味悪がられたが。
「なんなのトキヤ?そんなに俺を早く寝かせたいわけ……?」
「いいから早く寝なさい。子供は寝る時間ですよ」
「ええー……」
不審がっていた音也だったが、トキヤが布団越しにぽんぽんと叩いてやればすぐに寝落ちた。音也の生活リズムがお子様で助かった。すやすやと寝息を立てたのを確認する。これで明日の朝までは大丈夫だろう。

音也の就寝を確認して、トキヤは素早く支度を済ませる。こっそりと寮の廊下に出て辺りを見回した。互いの部屋を行き来することは禁止されている時間帯だ。誰の気配もない。忍び足で廊下を歩くと、あっという間に砂月の部屋の前まで辿り着いてしまった。
扉の前で立ち止まる。中に入ってしまったら後戻りはできない。逸る心臓を押さえて深く息をついた。できる限りの「準備」はした。使うものも、体の用意も、きちんとできているはず。告白した夜に砂月が手を止めたのは、この日をきちんと迎えることができるようにするため。もう、覚悟はできている。

――私は、あの人に抱かれに来たのだ。

扉を小さくノックをすると、すぐに砂月が出てきた。まるでずっと待っていたかのように。
「……こんばんは」
「…………よう」
出迎えた砂月の表情は強張っていた。……あなたでも、緊張するんですね。そう思ったら肩の力が少し抜けた。


◆◆◆


「ん……んん……」
「……は、ぅ……んう……」

唇が軽く触れただけで、もう手順など頭のどこかに追いやられてしまいそうだった。
薄暗い部屋の中、二人の舌と舌が絡まり、湿った音を響かせる。どちらともなく交わされた口付けは次第に深さを増していった。唾液ごと舌を吸って絡めて、それでも足りない。砂月の肩にしがみつくように手を伸ばすと、砂月はトキヤの腰を強く抱き寄せた。
夢中になって忙しなく口付けを繰り返しながら、砂月の指がそろりとトキヤの肌に触れた。シャツの下、無防備な肌。トキヤがキスの合間に甘い声を上げる。

確かめるように肌を撫ぜていく。薄い皮膚だ。心臓の鼓動、血の流れまで手にとるように分かった。やがてその指が乳首に行き当たる。もう、硬かった。
「あ……」
鼻にかかった声。トキヤの肩が小さく震え、熱い息が零れ落ちる。つう、と擦り上げると更に息が上がった。

ボタンを外してシャツを開く。露わになった平坦な胸の上で、淡い色のそれは砂月からの刺激を待ちわびているようだった。
「……尖ってる」
「や……やめっ……」
期待に応えるように先端をつまんでやれば、トキヤは首を振って身を捩らせた。本当に嫌がっているわけではない。もたらされる快感に怯えが先走っているだけだ。
口に含んで舌先で転がすと、トキヤの声は一段と高くなった。
「あっ……ああ、んうっ……」
行き場を失った手が、砂月の髪をくしゃくしゃと掻き回す。そんな反応を気にも留めず、砂月はトキヤの乳首に吸い付いた。かり、と軽く噛むと、トキヤの体は面白いように跳ねた。湿った喘ぎ声が砂月の耳に響き、頭の奥まで届いてどうにかなりそうだった。

下半身に手を伸ばすと、トキヤのそれは既にゆるく勃ち上がっていた。乳首だけで、こんなに感じてるのか。本当かどうか確かめたくてもう一度先端を舌先で弾いてやると、喘ぎ声と共にそれが質量を増すのが分かった。……面白いかもしれない。
「ちょっと……なに、やって……ああっ、あ、あっ」
唾液で濡らした乳首を吸い上げ、それと同時にトキヤの性器に触れる。こすり上げると内腿がびくりと痙攣した。両方から与えられる刺激にたまらず喉を反らせる。砂月の手は止まらない。性器の先端を親指で撫でる。トキヤはたまらず腰を浮かせた。

「ん、あ、ああっ!」
ぱたぱたと、トキヤの腹の上に白濁が散る。砂月は自分の手とトキヤのそれを交互に見た。
「早……」
「だ、れの、せいだと……っ」
息も絶え絶えに抗議するが、その反応は砂月を余計に煽ることにしかならなかった。にやりと砂月の口の端が釣り上がる。危険を感じて身を捩るが、手首を掴まれて動けない。そのまま唇を奪い取られた。

「んぅ……」
砂月の中で、何やらスイッチが入ってしまったらしい。砂月の指が、唇が、トキヤの体をくまなく探り始めた。首筋や鎖骨の皮膚を吸い上げてキスマークを残したかと思えば、耳を丹念にねぶってくる。耳の穴に舌を押し込まれた時には思わず悲鳴を上げてしまった。耳が弱いのが完全にばれている。それだけではない。砂月の舌に意識を集中させて身構えていると、指が敏感なところをなぞってくる。同時に攻められてはたまったものではない。あらゆる角度から襲ってくる刺激と快感を受け止めるので精一杯だった。
――遊ばれている。
直感的にそう思った。まるで新しいおもちゃを貰った子供のように、砂月はあれこれ手を替え品を替えトキヤの体をまさぐる。そして新しい反応が返ってくれば夢中で何度も繰り返す。まさかベッドの上で、解剖台に乗せられたカエルの気分を味わう羽目になるとは思わなかった。一方的で理不尽だ、こんなもの。自分だけがいいように弄ばれて、気持ちよくなって、喘ぎ声を上げるなんて。

「さつき……っ、もう、いいかげんに……っ!」
肩で息をしながら、トキヤは砂月を見た。これ以上好き勝手されるわけにはいかないと、せめてもの抵抗を試みようとしたのだ。しかし、振り上げかけた腕は、砂月の目を見た途端にぴたりと止まった。
「あ…………」
無心でトキヤの体に触れるその目は、じっとりと熱を帯びていた。彼は確かに欲情している。ただ、それを意志の力で抑え込んでいるだけだ。
彼は遊んでいるわけではなかった。どうすればトキヤが気持ちよくなるのか、どこで快感を拾うのか、砂月なりに懸命に探り当てようとしていたのだ。早く事を進めたいだろうに、何故そんな回りくどくて面倒なことをしているのか。――大切にしたいと思っているからだ。砂月が、トキヤを。

そのことに気付いた途端、トキヤはいてもたってもいられなくなった。快感に押し流されそうになるのをこらえる。肌に触れてくる砂月の手を掴んで、上半身を起こす。
「……っ、なんだよ……」
「あなたも一緒に、気持ちよくなってくれなくちゃ、だめです」
「……ぁ、おい、こら……っ!く……」
砂月の性器に手を伸ばす。それはもうすっかり勃ち上がっていて、トキヤが触れるとひくひくと震えた。指を使って上下に擦り上げると、砂月はたまらず声を上げる。
さすがに咥えることはできなかったが、その代わり、できる限り気持ちよくさせてあげたいと思った。砂月がどこで感じるかは、前に抜き合いをした時に多少は心得ている。大きな動きよりも、小さく細かい刺激の方がいいらしいのだ。先端の窪みに指の腹を這わせると、砂月は身震いした。

「……もう、いい……っ!」
あとすこし、と思っていたら、砂月が勢いよく体を起こした。トキヤはまたベッドに押し倒される形になった。頭上に、苦しげな表情を浮かべた砂月の顔がある。
「もういいから……挿れさせろ」
熱に浮かされたその目に射抜かれて、トキヤはかすかに喉を鳴らした。そして、静かに頷いた。確かな期待と共に。
それが合図だったかのように、砂月は荒々しくベッド横の引き出しに手を伸ばす。そして、引き出しの中にあったボトルを乱暴に手に取った。透明なジェル状の液体が入っている。手のひらに垂らすと、零れた一部がトキヤの腹の上に落ちた。その冷たさにトキヤの体が跳ねる。
「つめた……っ」
「あ……悪い」
砂月は短く謝ると、液体を手のひらで伸ばし始めた。体温で温めようとしているらしい。じれったい思いはあったが、それは自分に負担のかからないようにしている行為なのだと思うと、トキヤは頭の芯がぼうっと溶けていくような感覚に陥った。

液体でぬめりを帯びた指が、トキヤの後孔にあてがわれる。
「う、あ……」
圧迫感。次いで異物感が襲ってくる。痛みよりも苦しさが勝る。だが、ローションのおかげか、初めてにしては難なく指が収まった。
「せま……」
息を上げながら砂月が感想を漏らした。はじめはゆっくりと出し入れしていたが、徐々に深くまで押し広げていく。狭い中にローションを行き渡らせるように。体温に馴染んだ液体は、次第にとろとろとゆるんで水音を立てた。

「あ……んん、う、ふう……っ」
「……痛いか」
「だい、じょうぶ……です……練習、したので……」
「練習?」
ぴたりと砂月の指が止まった。眉をひそめてトキヤの顔を覗き込む。探るような目だった。
「あ……ちがいます、変な意味ではなくて……っ、あの、一人で……いろいろ……試したんです……ちゃんと、入るように……」
後ろの方になるにつれて言葉が細切れになっていく。恥ずかしさで顔から火を噴きそうだ。顔を真っ赤にしたトキヤを、砂月はまじまじと見下ろした。
「……勉強熱心な奴だな……」
「準備が要るとか言ったのは、あなたでしょう……」
こんなところでもトキヤの勤勉さが発揮されるとは。初めての割にスムーズに指が入ったのはそういうことだったのか。もやもやと感じていた違和感が急に晴れて、砂月は気分が高揚した。体は正直なもので、下半身にまた熱が集まる。……早く、挿れたい。

「指、増やしていいか」
内側がゆるんできたのを感じ取って、耳元でささやく。トキヤは浅い呼吸を繰り返しながらこくこくと頷いた。指をもう一本差し入れると、内側がより締まる。求めるように。二本の指で中をかき混ぜてやると、トキヤは声にならない声を上げた。
「あ、やあっ、う、ああ……っ」
ぐちゅぐちゅと水音を立てながら指を動かす。その度にトキヤの肩が跳ね、熱い息が漏れる。浅く深く指を出し入れしていると、急に「あっ……!」とトキヤが背中を仰け反らせた。
「……悪い、痛かったか」
「ち、ちが……逆……」
逆、とは。トキヤの表情を見ると、眉根は苦しげに寄せられてはいたが、その目はどろどろに溶けていた。もう一度、さっきと同じ場所を指でなぞる。またトキヤがびくびくと肩を震わせた。

「あっ、ああっ、そこ……っ、だめ……」
「……ここか」
「あんっ!」
内側のしこりのようなものを指先で引っ掻くと、トキヤの体が面白いように跳ねた。喘ぎ声の声色が明らかに変わる。確かな快感を含ませた喘ぎ。太腿が痙攣し、内側の締め付けがより激しくなった。
「あっ、ああ、あっ、あっ、」
そこを刺激するたびに、トキヤは甲高い声を上げる。――もう、限界だ。砂月は熱い息を吐いた。

「……挿れるぞ」
脚を開かせ、さっきまで指を入れていたその場所に、痛いほど勃ち上がったそれをあてがう。トキヤは涙で目を潤ませながら何度も頷いた。
「あぁっ――」
先端が呑み込まれる。ほんの少しだけ挿れただけなのに、内側がきつく締め上げてくる。ひどく狭い。
「おい、力抜け……っ」
「う、……む、無理、です……っ!」
トキヤの指先は、シーツを握り締めすぎて白く浮き上がっている。汗が滲む額、苦しげに寄せられた眉。力を抜けと言われたところで、すぐその通りにできるわけがない。砂月は小さく息をつき、トキヤの顔に自分の顔を寄せた。きつく瞑られた目がうっすらと開けられる。その目蓋にキスを落とした。ぱち、とトキヤが驚いて瞬きをする。ほんの少し体の力が抜けたのが分かった。そのタイミングでぐっと腰を進める。

「あっ!あ、ああっ……」
ぽろ、とトキヤの目から大粒の涙がひとつぶ零れた。
奥まで、全部入った。トキヤもそれを感じ取ったのか、内側がひくひくと痙攣した。ぴったりと吸い付くようだ。砂月は顔をしかめた。正直、かなりきついし狭い。できるならもっと力を抜いてほしいところだが、これ以上無理を強いるわけにもいかない。苦しさはもちろんあったが、それ以上に、二人が深くまで繋がれた充足感の方が大きかった。
トキヤの肩に腕を回すと、トキヤもそれに応えるように砂月に体を寄せた。汗ばんだ胸が重なり合う。皮膚越しに、互いの心臓の音がうるさいくらいに鳴っているのが分かる。二人はしばらくその音に聞き入っていた。

「……動くぞ」
トキヤのこわばりが緩んだのを受けて、砂月はゆっくりと腰を浮かせた。体はぴったりと密着させたまま、ゆるやかに律動を始める。
「くっ……」
「あ、あ、ああ、あっ……」
体の揺れに合わせて、トキヤが小さな喘ぎを繰り返す。腰を抱え込んで角度をつけると、また違う声が上がった。もっと、もっと深くまで。痺れるような快感が砂月の背筋に走る。頭がどうにかなりそうだった。もっと優しく、ゆっくり動かなくてはいけないと分かっているはずなのに、腰の動きは激しさを増していく。
浅いところで繰り返し出し入れをしたかと思えば、一気に最奥まで貫いたり、何度も執拗に奥を突いたりする。そのたびにトキヤが涙混じりの声を上げる。確かに繋がっているという感覚がじわじわと全身に染み渡り、快感と多幸感に支配されてもう何も考えられない。夢中でトキヤの体を貫いた。何もかも溶けてひとつになればいいと思った。

「あっ、ああっ、もう、だめ、さつき……っ」
「……俺、もっ……」

再び一番深いところまで交わった瞬間、互いの体が震える。ちかちかと星が舞って、二人は時をおかず吐精した。


◆◆◆


目蓋の裏に眩しさを感じて、トキヤはうっすらと目を開けた。部屋の電気は、消したはずだが。どうしてこんなに眩しいのだろう――そこまで考えて、目を大きく見開いた。
「朝……!?」
がばりと体を起こそうとしたが、大きな腕が体の上にのっていてそれはかなわなかった。視線を横にずらすまでもなく、吐息のかかりそうな距離に砂月の顔があった。抱き締められたまま寝ていたらしい。全裸で。
「ちょっと……」
昨夜のことを思い出して顔が熱くなるが、今はそれどころではない。頭だけをどうにか動かして、ベッドサイドに置かれた時計を見る。今日は月曜日。あと三十分でホームルーム開始の時間になるところだった。

「こら、砂月!離しなさい!学校ですよ!」
「……うるせえな……」
砂月の頭をぺしぺし叩いて起こそうとするが、砂月はごにょごにょと寝言を言うだけで動く気配は見られない。無理にでも引き剥がそうとすればするほど、砂月は腕の中の獲物を逃すまいと力を強めるのだった。これは埒が明かない。トキヤは砂月の腕の中で無駄な体力を消耗した。

「……百歩譲って遅刻は受け入れましょう。でも欠席は嫌ですよ……あなたのせいで無断欠席になったら呪いますから」
「んー……」
「聞いてますか砂月」
「おまえもねてろよ……」
「んなっ……」

砂月の手がトキヤの頭を抱え込んだ。ぽんぽん、と二度三度頭を撫でられる。まるで体のいい抱き枕だ。もぞもぞ動いて脱出を試みるが無駄だった。
今頃音也は「トキヤどこ〜〜」と探し回っているかもしれないとか、レンが意味深な笑みで「いいんだよイッキ、そっとしておいてあげよう」などと言っていそうで腹立たしいとか、翔にどうやって遅刻の理由を説明しようとか、考えることはいくらでもあったが、砂月の寝顔を見ていたら全てがどうでもよくなった。
幸せを煮詰めたような顔で寝ているのだ。今まで一度も見たことがない、気の抜けた顔だった。
そんな無防備すぎる寝顔を目の前にして、怒る気力など湧いてくるわけがない。トキヤは溜息をついた。

――こうなったら、全部あなたのせいですからね。

幸せそうな寝顔に全ての責任を押し付けて、トキヤは二度寝を決め込むべく静かに目を閉じた。




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2021/08/19


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