バカップルへ30題


お題配布元
【基本設定】
・トウヤは中3→受験を経て高1に。
・Nは大学1年→2年。トウヤの家庭教師として数学を教えている。
・トウヤは一人暮らしのN宅に通って勉強を教えてもらっている。


★01.初詣で/★02.入試前夜/★03.春休み/★04.絵文字/05.聖夜
★06.子ども時代/★07.テスト/★08.甘いもの/★09.猛暑/★10.バイト

11.雨宿り/12.線香花火/★13.お昼寝/14.筆跡/15.親友
★16.年越ソバ/★17.お花見/18.弱点/★19.ホワイトデー/★20.留守電

21.お弁当/★22.飲酒/23.癖/★24.雪だるま/★25.バレンタイン
26.補習/27.ドラマ/28.タイプ/29.秋/30.犬と猫



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01.初詣で


「うわあ、すごい列だ!こんな寒い夜にみんなよく並ぶね」
「……初詣に行きたいって騒いだのは誰だったっけ」
「ボクだよ。でもこんなに並んでるなんて想定外だった」
「待つの嫌なら帰ってもいいけど」
「こうやって待つのは別に苦ではないよ。ただ……へくしゅんっ!」
「あ」
「……ご、ごめん!」
「もしかして、寒い?」
「うん……深夜の寒さを甘く見たのが間違いだったよ。もっと着込んでくればよかった」
「Nはいつも薄着だからな。ほら、これ」
「え!?い、いや、トウヤだって寒いでしょ、このコートは受け取れないよ。そもそも厚着しなかったボクが悪いんだから」
「いいから着ろって。寒そうにしてるお前を見てる方が嫌だ」
「でも……」
「風邪なんかひいたらただじゃおかない」
「!!」
「分かったらつべこべ言わずにさっさと羽織れ」
「……うん。ありがとう」
「その代わり、」
「へ?」
「俺の左手はNの右手に温めてもらう(ぎゅうう)」
「……頑張って温めるよ(ぎゅっ)」


ちなみに、人間は本能的に「守りたいもの」を左側に置くそうですよ。
(2011/01/01)



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02.入試前夜


「どうしよう」
「どうした」
「緊張しすぎて吐きそうだ……」
「吐くならトイレで。それに受験するのはNじゃなくて俺だ」
「だからだよ。キミに限って『そんなこと』は絶対ないだろうけど、もし万が一のことがあったら……」
「万が一にも億が一にも無いって。出来る限りのことは全部やった。あとは明日の本番に俺が全力投球して、二人で結果を待つ。それだけだろ?」
「……まったく、キミはボクなんかよりよほど冷静だね」
「Nが代わりに心配してくれるからな」
「なんだいその理由」
「納得いかない?だったらこうだ、『俺の家庭教師は優秀だから』」
「ボクのことをそんなに過大評価したって何も出ないよ」
「過大評価した覚えは一度もないけど。俺の知る限り、Nは教えるのが一番上手い」
「教え始めた頃は『お前の説明分かりにくすぎ』とか言ってたくせに」
「それだけ指導力が上がったってことだろ」
「……なんだか、キミの受験前夜なのに、ボクの方が励まされている気がする……」
「今頃気付いた?」


トウヤは推薦で行けるくらいの成績を取っていたけど、家庭教師であるNともっと一緒にいたいがために推薦を蹴って二次試験を受けたという裏設定。(2011/01/27)


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03.春休み


「合格おめでとうトウヤ、来年度からは立派な高校生だね。キミの受験を応援していた者として、とても嬉しく思うよ」
「お前が教えてくれたからだ、ありがとう、N」
「そんなことないよ。ボクが教えたことなんて微々たるものだ。キミが合格できたのはキミ自身の力に他ならない。……これでボクの役目も終わった」
「……は?」
「もうキミがボクの家に来ることもなくなるかと思うと少し……いや、実はかなり寂しいけれどね。でも我が侭は言わないことにするよ。トウヤはこの春休みを思い切り楽しむといい」
「ちょっと待てN、何言って、」
「思えば1年という短い間だったけど、家庭教師としてキミと同じ時間を過ごし、こうしてキミを送り出すことができてボクは幸せだ。高校に行っても、たまにでいいから連絡をくれると嬉しいな」
「だからなんでそういう話に、」
「もし高校の授業で分からないことがあったらすぐに聞いて欲しい。ボクでよければいつでも力になるよ。直接教えることはもうできないけど……あ、だめだ、せっかく晴れやかな気持ちで見送れると思ったのに、またしんみりして……こういうの昔から苦手なんだよ、本当に」

「――N!!」
「わっ!?……え、な、なんだいトウヤ。いきなり大声で」
「俺の話を聞け、自分の中だけで勝手に話を進めるな!何なんだ一体、どうして俺がお前と別れるみたいな展開になってるんだ!?」
「だってトウヤは無事に高校合格したし、ボクは用済みなんじゃ、」
「俺がいつお前を用済みだなんて言った!?家庭教師は中学で終わりと決めたことがあったか!?」
「言ってないし決めてもない、けど」
「だったらこれからもNは俺の家庭教師だ!いいか、俺はお前を手放す気はない!お前はこの春休みを俺と過ごす!」
「は……春休みも?」
「返事!」
「わ、分かりましたっ!」
「覚悟しとけよ」
「覚悟って何を」
「……色々と」
「ええええええ」


流されやすさに定評のあるNさん。受験から解放されたトウヤは、入学式の前日までNと一緒に春休みを満喫します。(2011/02/23)


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04.絵文字


「やっほートウヤ、元気?……って、どうしたのあんた」
「……っっっ!!」
「人が聞いてんだからちゃんと答えなさいっての」
「痛っ!くそ誰だよ……っ、あ、なんだトウコか。久しぶり」
「せっかく会いに来てやったのに『なんだ』って何よ『なんだ』って。随分とでかい態度取るようになったじゃない」
「ふん、今の俺に何を言っても無駄だからな」
「さっきまで携帯片手にぷるぷる震えてた奴の言う台詞じゃ無いと思うけど。何か良いことでもあったわけ?」
「あった。……けど、トウコには教えない」
「はあああ?」
「ははん」
「うわーイラつくわその顔……残念だけど『知ってほしいのを隠して焦らす戦法』はあたしには効かないから。早くその携帯見せなさいよ」
「やだ」
「股間に蹴り入れられて悶絶したい?」
「……どうぞ」

「最初から素直に渡せばいいのよまったく……えーと、何これ」
「メール。Nからの」
「N?……ああ、家庭教師してもらってるっていう例の?……『明日は夜7時に行くね』……別に何の変哲も無いメールじゃない。これのどこが嬉しいわけ?」
「……最後……」
「最後?」
「ハートの絵文字……」
「……確かに、付いてるけど。まさかそれだけ?」
「だってNって携帯あんま使わないから事務連絡のメールしかくれないし、滅多に絵文字使わないし、使っても宇宙人とかモアイとか意味分からないのばっかりだし」
「で、今回は何を間違ったのかハートマーク付きのメールが向こうから来た、と」
「どんなこと考えてハートにしたのかって考えただけでもう……Nが可愛すぎて死ねる……」
「ノロケは一人で勝手にやってなさい」


トウヤとトウコの温度差。笑
Nはどの絵文字使ったらいいのか分からなくて謎の絵文字を多用してそうなイメージがあります。
(2011/02/233)



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06.子ども時代


「おじゃまします」
「いらっしゃいませ」
「いつもはキミがボクの家に来ているけど、逆は初めてだね。なんだか新鮮だ」
「……あんまりじろじろ見るなよ」
「いけないかな?」
「いや、そういうわけじゃないけど…ちょっと照れる」
「キミらしくて良い部屋だと思うよ。シンプルだけど洗練されている」
「そういうのが照れるんだって…あ、飲み物取ってくるから待ってて」
「うん」

「ふう、やっぱり初めて来る場所は緊張してしまうな…………あれ?この写真…小さい頃のトウヤだ。可愛いなあ、全然変わってない。こっちはトウコと2人で写っている……ふふ、トウヤは昔からトウコに泣かされていたんだね」
「持ってきたぞー……ってN!?ちょちょちょちょっとなに勝手に見てるんだ!見るなよ見るなって!」
「あっ!返してくれトウヤ、まだ全部見ていないのに…!」
「写真見るの禁止!あーもう、写真立てはしまっておくべきだった……よりによってこの写真を見られるとか……」
「トウコにつねられて泣いている写真のこと?微笑ましくていいじゃないか。ボクはもっとキミの小さい頃の写真が見たいよ」
「だめ。俺の写真なんて見ても面白くないだろ」
「面白いに決まってるじゃないか!」
「それってどういう意味……まあいいや……ていうかさ、俺の写真見たいって言うなら、Nも昔の写真見せるべきだろ?それなら交換条件成立だ」
「……ごめん、その条件はおそらく成立しないよ。生憎、ボクの小さい頃の写真はほとんど残されていないんだ。そもそも写真を撮られているかも分からない」
「え……」
「だから、ごめん」
「(どうしよう、触れちゃいけない話題に土足で踏み込んだ感がヤバイ……)」
「(ああ、トウヤが困った表情をしている…余計な発言をして気を遣わせてしまうなんて、ボクは……)」

「……。」
「……。」
「…………あ、あのさ、N」
「な、なんだい」
「……俺の昔のアルバム、見たいなら持ってくるけど」
「えっ!?本当かい!?」
「その代わり、『可愛い』とか絶対言うなよ!コメントしなくていいから!見るだけ!」
「うんうん、絶対言わないよ!」
「(絶対言うだろ……)」


Nさんは家庭環境が複雑。トウヤは、気まずい空気が続く位なら、自分の恥ずかしい写真を披露してNに笑われることを選ぶ。
(2013/02/08)



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07.テスト


「N!」
「おや、今日はいつにも増して機嫌がいいようだね、トウヤ。どうし……、」
「いいからこれ見てくれ!」
「? なんの紙だい?(ぺらり)…………!!トウヤっ!」
「Nっ!」(ひしっ)
「すごいよトウヤ、数学のテストで……97点も……!」
「だろ!だろ!!」
「97……見れば見るほど美しく調和のとれた素数だ……この数字をキミの答案で見ることができるなんて……」
「(注目するところそこなんだ……)」
「ボクがキミの勉強を見始めた頃からは考えられない伸びようだよ!あの赤点まみれの答案を見せられた時は眩暈がする程だったけれど……あれからここまで到達できるとは……本当に素晴らしいよ。よく頑張ったね、トウヤ」
「Nが今まで教えてくれたおかげだよ。ありがとう、N」
「いいや、これはキミの努力が実を結んだ成果だ。……自力でこれだけ解けるようになったなら、もう僕はお役御免かな」
「えっ」
「……と、言いたい所だけど」
「ええっ!?」
「今回の結果をただのまぐれにしないためにも、まだ継続してキミの数学を見る必要はありそうだから、これからもよろしく」
「…………お、おう」
「どうしたんだいトウヤ、そんなにきょとんとして」
「……いや、また『家庭教師やめる』とか言い出すのかと思ってヒヤヒヤした」
「ふふ、さすがにもうそんなことは考えないよ。ボクはできる限りキミの近くにいたいしね」
「(あれっなんか凄く嬉しい言葉を言われてる気がする……)」


「よっすチェレン」
「やあトウヤ、話は聞いてるよ。この前の期末考査、数学で97点取ったんだって?」
「なんだ、もう知ってたのか」
「ベルが嬉しそうに教えてくれたよ。『チェレンせんせーのスパルタ授業のおかげだね!』って」
「……その節は大変お世話になりました」
「本当だよ。まさか教えられる側である君の方が、僕より良い点数を取るなんてね。こんなことなら勉強みてやらなければよかったかな」
「そんなこと言うなよ……ホント、チェレン先生には心の底から感謝してるッス。ありがたいッス」
「先生呼ばわりはやめてくれって言ってるだろ。それに、トウヤからはきちんと対価も得てるわけだし、イーブンだよイーブン」
「……まあ、確かに。『勉強みる度にハーゲンダッツ1個おごり』はなかなかキツかったな……財布的に……」
「おかげさまで僕は毎週ハーゲンダッツ三昧だった」
「ベルに『太った?』とか言われてないか?」
「はあ!?あの程度で僕が太るとでも!?」
「(言われたんだな……)」

「それよりトウヤ、君の方こそ少し痩せたんじゃないのかい?勉強のし過ぎでさ」
「さあどうだか。Nの家に行く時はしょっちゅう甘いもの食べてるしなー」
「トウヤを死ぬ気で勉強する気にさせた奴か」
「人聞きが悪いぞチェレン」
「でも事実だろう?……3か月前、君が思いつめた顔で『数学教えてくれ』って頭を下げに来た時は、何の騒ぎかと思ったよ。昔から大の数学嫌いだったトウヤが!」
「だってあれは仕方ないだろ。Nの説明は全っっっ然理解できなかったんだから。基礎的な計算問題ですら、教科書の解法丸無視してあいつ独自の難解すぎるやり方で解くし、計算の過程を凡人に分かりやすく説明する気ゼロだし、ベクトルはこの世で最も自由な翼をもった旅人だ!とかポエミーなこといきなり言い出して、ベクトルの奥深さを延々2時間語り倒したりするし……」
「正直、家庭教師の役割をまったく果たしてなかったね。話を聞くだけでうんざりする。……まあ、そこで心折れないところがトウヤらしいけど。惚れた弱味ってやつかい」
「弱味かどうかは知らない。……でも、あいつ――Nはさ。普段は何考えてるか分からない無表情だけど、数学について話す時だけは、目が輝くんだ。星がキラキラ光るみたいに。話の内容は高度すぎて理解できないけど、あいつにとっては本当に楽しくてたまらない内容なんだと思う。あの目を見てたら、がんばらなくちゃと思った。数学が今よりもっと好きになれたら、あいつの話が100分の1でも理解できるようになれたら、俺の感じ方も変わるんだろうなって。……だったら死ぬ気で勉強するしかないだろ」

「…………」
「……ごめん、語りすぎた」
「いや、それはいいんだ。君とそのNって奴の惚気話は聞き飽きてるし」
「じゃあなんだよその目」
「…………トウヤってさ」
「ん」
「ホント、涙ぐましいほどに一途で健気だよね」
「……褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちだ」
「どちらかというと同情してる。たぶんNには、君の一途さの半分も伝わってない気がするから。自覚はあるだろ?」
「……別に、伝わってなくても、Nが喜んでくれるならそれでいい」
「あのさあトウヤ。君のそういう謙虚な部分は美徳だと思うけど、あの彼を相手にする場合は間違いなく損だぞ……」


補足:Nさんはトウヤの家庭教師として数学を教えていますが、教え方が壊滅的に下手。しかしトウヤは正直なことを話してNさんを傷つけたくなかったので、幼馴染で優等生のチェレンに、数学を教えてくれと頼んだのでした。
トウヤが97点を取れたのは、チェレンの指導と、トウヤ自身の血の滲むような努力、そしてNさんを喜ばせたい・Nさんのことを(特に彼の好きな数学について)もっと理解したいという愛の力によるものです(真顔)
(2014/09/04)



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08.甘いもの


「今日はレアチーズケーキ作ってきた。ちょうど冷蔵庫にクリームチーズがあったから」
「わあ、今回も力作だね……!さっそく食べようか。今、食器と紅茶の準備を……」
「――あ、俺はいい」
「え?いらない?せっかく持ってきてくれたのに……」
「もともとNに食べさせるために作ったんだ、俺は別に食べなくても平気だよ」
「でも、いつもは一緒に食べてくれるじゃないか。今日に限ってどうしたんだい?」
「……別に……」
「絶対何か隠してるだろう、キミ。分り易すぎるよ」

「……、ふと……」
「ふと?」
「太った、から……」
「……え?」
「久しぶりに体重計乗ったら増えてたんだよ!数字が!キロ単位で!だから俺は食べない!」
「そんな……!な、何が原因で……!?」
「明らかにこれだろ……週2で夜に甘い物食べてたらそりゃ太るか……」
「そ、それは一大事、なのかな……?ボクの目にはそれほど変化は無いように見えるよ?」
「知らず知らずのうちに腹の肉がふにふにしてくる怖さを知らないからそんなことが言えるんだ……部活とバイトで動き回ってるはずなのにな……」
「うーん……健全な男子高校生としては由々しき事態なんだろうね。ボクにはよく分からないけど……」
「俺以上にあれだけケーキ食べておきながら、もやし体型に一切変化がないNの方が異常なんだよ……。――とにかく!俺は腹筋と体重を元の状態に戻すまで甘い物は食べない!」

「……そうか……それじゃあ、寂しくなるね……」
「うっ……!(な、なんだこの罪悪感は……)」
「一人で食べても楽しくないし、これからはキミに合わせてボクも甘い物を控えるよ」
「え……そこまでしなくても……」
「いいや、そうするべきだよ。ボクの楽しみなんかより、キミの事情の方を優先させなくては」
「……、」
「とはいえ一抹の寂しさは拭えないね。キミの作ってくれたお菓子を一緒に食べることが、ボクの生き甲斐だったから……」
「……………………やっぱり、やめた」
「へ?」
「これからケーキを作る時はカロリーをできるだけ抑えたものにする。運動量も今までの倍増やす。……だから甘い物を控えることは、やめる。Nと一緒にケーキを食べる時間は削らない」
「でも、そんなことをしたらキミが……」
「いいんだって。……なんだかんだ、俺もNとケーキ食べてる時が一番楽しいって思うんだ。……ほら、気にしてる暇があったら紅茶の準備!」
「あっ、う、うん!」


何が一番甘いって、トウヤのNに対する甘やかしっぷりですよ。この現パラ主Nは事あるごとに何か食べてる気がする…
(2013/02/08)



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09.猛暑


「暑いね……」
「暑いな……」
「……」
「……」
「熱いね……」
「熱いな……」
「どうしてこの暑さの中、ボクらは煮えたぎる鍋の前に立っているのだろう」
「Nが素麺食べたいって言ったから」
「その通りだ。だけどこんなにあついとは思わなかった」
「別に無理してここにいなくてもいいんだぞ?向こうはクーラー効いてるんだし……暑いのは得意じゃないんだろ」
「いいや、ここにいるよ。トウヤがせっかく暑さを押してソウメンを茹でてくれているんだ。昼食のメニューを決めた者として、ボクにはそれを最後まで見届ける義務がある」
「……言葉自体は格好いいんだけどさ、N」
「?」
「汗だくで目を虚ろにさせながら言うセリフじゃないと思うんだ」
「……」
「……ほんと、無理しなくていいから。というか頼む。リビングに戻ってくれ」
「しかし義務が……」
「倒れられたら俺が困る」
「……(ジト目)」
「……(そんな視線を向けても駄目だという顔)」
「……分かった。キミの言う通りにするよ」
「そうしてくれ。素麺は俺が責任持って茹でるよ。Nは向こうで食器の準備、よろしく」
「(こくん) だけど、涼を求めるまでの道のりが、こんなにも険しいものだとはね……」
「明日はキッチン用の扇風機買いに行こうな……」


そうめん自体は冷たくて美味しいんですが、茹で上がるまでが暑さと熱さの戦いですよね。
(2014/08/24)



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10.バイト


「トウヤ、何を読んでるんだい?」
「求人情報誌」
「アルバイト、始めるの?」
「そのつもり。親の世話になってばかりじゃ申し訳ないし」
「偉いなあ……あれ、でも部活も入るんだろう?部活とアルバイト両方やるのは時間的にも体力的にも大変じゃないかい?」
「無理しない範囲で調整しようとは思ってるよ。部活後と土日の時間使えばなんとかなる」
「キミのことだから、部活とアルバイトに労力を注ぎすぎて授業中寝るに決まってる」
「随分信用ないな……」
「客観的にキミの行動パターンを分析したにすぎないよ。そもそもトウヤは学生の本分を見失っている。本来優先するべきなのは勉強で、」
「あ、このイタリアンレストラン、結構いい条件だ」
「……トウヤ、ボクの話ちゃんと聞いて、」
「時給は他より高め、店はチャリで通える距離にある」
「…………」
「しかも募集はキッチンスタッフ。いいなこれ。なあ、Nはどう思う?」

「……いいんじゃないかな、トウヤは料理上手だから」
「え……どうしたんだ、いきなり声のトーン下がったぞ。何か怒ってる?」
「別に怒ってない」
「いや明らかに怒ってるだろ。……俺がお前の話聞いてなかったからか?」
「その程度のことで怒るように見えるかい。キミには観察力がないみたいだね」
「じゃあ何」
「当てられるものなら当ててみればいい」
「……もしかして、バイトのせいで俺と過ごす時間が減るかもしれないから?」
「――っ、」
「図星か。心配しなくても、オフはしっかり確保しとくって。それにさ、俺がバイトの時はNが店に来ればいいだろ?客としてさ」
「……行って、いいの?」
「金はお前持ちだけどな。売り上げに貢献してくれるなら毎日来たって構わない」
「そんなこと言われたら、ボクが常連客になるの確実じゃないか」



この後、トウヤはバイトの面接に無事合格、Nはお店の常連客に。
トウヤはバイトの同僚の女子から「ねえ、トウヤ君がシフトの時って必ずあのお客さんが来るけど、知り合いなの?」と尋ねられて、「『知り合い』だと他人行儀だし、かといって『友達』はどうもしっくりこない。……Nって俺の何なんだ?」と悩んでそう。



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13.お昼寝


「こっちに来なよトウヤ、窓際は日差しが気持ちいいんだ」
「本当だ。……もう春か」
「ボクたちが初めて会ったのも春だったね」
「ああ、あれか」
「車道に迷い込んだ子猫をボクが避難させてあげようとしたら、運悪くトラックが来て」
「あの時はかなり焦ったな」
「でも、運良くキミが助けてくれた。驚いたよ、間違いなく轢かれると思っていたから」
「冷静に自分の命を諦めるなよ……目の前で人身事故起こされてたまるか」
「そうだね。危うくキミにトラウマを植えつけるところだった。助けてくれて本当にありがとう。……キミの自転車が犠牲になってしまった件については……1年経った今でも『ごめん』としか言えないのが心苦しいよ」
「だからそれはもういいって。弁償してもらう代わりにお前が俺の家庭教師をするって決めただろ。自転車代以上にこき使わせてもらったし」
「確かにこき使われた自覚はあるけど、」
「それに」
「それに?」
「こうして休みの日まで俺に付き合ってくれてるし」
「……急に神妙な顔になってどうしたんだい?春休みだろうとお前を手放す気はない、なんて宣言したのはキミの方じゃないか」
「お前の言い方だと、俺が無理矢理そうさせたみたいに聞こえる」
「まさか。キミは強引に従わせているように見せかけて、実はボクの事情をちゃんと察してくれているじゃないか。……気付かれていないと思ったかい?」
「……」
「とにかく、ボクは春休みを毎日キミと一緒に過ごせることが嬉しくて仕方ないんだ。二人でゆっくり昼寝できるしね……ふあ……」
「N?」
「ん……」
「い……言い逃げ……だと……」


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16.年越しソバ


「改めて思うが、キミのお母さんはすごい人だね」
「な、何が?」
「ソバまで自家製で作ってしまうなんて、すごい」
「ああそういうこと」
「一般家庭ではあまりしないことなんだろう?年末にソバ作りというのは」
「普通は買って来て食べる方が多いと思う。周りの家と比べたことないけど」
「羨ましい限りだね」
「うちは毎年こうだから、ありがたみをあんまり感じないんだよなあ。その分、Nが素直においしい!って言葉にして感動してくれるのが、母さんは嬉しいみたいだ」
「それはもう、本当に美味しいからね。今食べたばかりのソバだって絶品だったよ。明日の朝、またお礼を言わなくてはね」
「母さんはさっき寝たんだっけ。って、もう11時か!Nも眠いだろ、普段こんな夜更かししないし」
「大丈夫だよ。年を越すまでは起きていると約束したからね」
「それを無理やり約束させた当の本人は、早々に寝落ちしてるけどな…」
「トウコ、こたつで寝てしまっているけれど、いいのかな。風邪をひいたりしたら…」
「安心していい。トウコに限ってそれはない。これだけ気持ちよさそうに寝てるんだから大丈夫だよ」
「トウコの頑健さを語る時のトウヤは、いつになく自信に溢れているね」


「さて、そろそろ今年が終わる」
「なんだかあっという間だったな…カウントダウンの前に片付けするか」
「その前にトウヤ」
「えっなんで正座?」
「いいから」
「は、はい」
「…キミと過ごしたこの1年間、ボクにとっては初めてのこと、楽しいことばかりだった」
「それは…俺もだよ」
「節分の豆まきは、本当に楽しかった」
「トウコが本気になって鬼役のチェレン追い回したからな、面白くないわけがない」
「豆は、年齢の分だけ食べるということを初めて知った」
「うん」
「春には、桜の木の下でお弁当を食べたり」
「ああ」
「デザートのチーズケーキは格別だったよ。トウヤの作ってくれる甘い物はどれもおいしい」
「ありがとう」
「サイクリングの途中で、坂を転がり落ちたことすらいい思い出だ」
「そんなこともあったっけ…」
「夏には海に行ったね。焼いたとうもろこしは、焦げたところまで味わい甲斐があった」
「とうもろこしにかぶりつくNは新鮮だったなあ」
「秋には焼き芋をして」
「うん」
「冬はこうしてトウヤの家に呼んでもらって、年越しソバをご馳走になった」
「…思い返すと食べてばっかりの年だったな」
「おいしい食事の体験は、すなわち幸福の体験なのだと。そう気付くことができた1年だった」
「幸福…」
「しあわせ、と呼んだ方がいいかな」
「……はー……」
「どうしたんだい」
「Nのそういう顔見てるとさ…俺もすごく幸せな気分になるよ。で、もっとおいしいもの食べさせてやりたいって思う」
「願ってもない光栄なことだ。よろしく頼むよ」
「そうやって大真面目にリアクションしてくれるところも最高」
「ふむ。ということは、キミのその表情も『嬉し涙』と解釈するべきかい?」
「嬉し涙と笑い涙で半分半分ってとこかな」
「キミも新年早々泣いたり笑ったり大変だね」
「新年ってまだ…」
「時計を見てごらん」
「うわ、もう0時回ってたんだ!テレビつけてたのに気付かなかった」
「ふふ、あけましておめでとう、トウヤ。今年もよろしく」
「あけましておめでとう。こちらこそよろしく」


ごはんをおいしそうに食べるNさんはかわいい。(迫真)
(2015/01/02)



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17.お花見


「どうぞ」
「何これ」
「何って今日はホワイトデーじゃないか。先月のバレンタインデーの時はトウヤがチョコレートケーキをご馳走してくれただろう?だからそのお返しにと思って」
「ホワイトデーなんて知ってたんだ?Nはそういうイベントに疎いからてっきり知らないものだと思ってた」
「ベルが教えてくれたのさ。ホワイトデーは3倍返ししなくちゃいけないってこともね。……3倍返しになっているかどうかは分からないけど、これ、ホワイトチョコのクッキーなんだ。よかったら貰ってくれないかい?」
「別にそんな気を遣わなくてもよかったのに……嬉しいけど」
「いいんだ、ボクがやりたいって思ったことだから。一応ボクの手作りだよ。これもベルが手伝ってくれた」
「最近会えない日が続いてると思ったら、俺に隠れてそんなことやってたのか……」
「うん、それについては申し訳なく思ってる。ごめん。ボクが料理下手なせいで何度も失敗したから、予想以上に時間が掛かったんだ。でもその甲斐あって、キミに食べてもらえるくらいの出来にはなってるよ。たぶん、ね」

「…………あ、うん、確かに美味い」
「本当に?」
「本当。ホワイトチョコのなめらかさと、クッキーの軽い食感のバランスがよく取れてる。美味いよ」
「よかった……おいしいって言ってもらえるか不安だったんだ。安心したよ」
「俺のために作ってくれてありがとう、N」
「お礼なんていらないよ。喜んでもらえただけでボクは、……っ!?」
「――愛してる」
「!!……な、な、何、言って……しかも、みっ、耳元、で、」
「一ヶ月前はNから好きって言ってもらったから、今度は俺から言おうと思って」
「……言葉の『甘さ』も3倍、とか上手いこと引っ掛けたつもりなのかい、トウヤ……」
「駄目だった?」
「だ、駄目も何も……ボクがそういうのに弱いことを知っていてわざとやってるんだろう……反則だ、卑怯だ、ずるい」
「お褒めに預かり光栄です」


まともに食べられる代物をNが作れるようになるまでの過程には、途方も無い時間とベルちゃんの努力があります。
(2011/02/23)



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19.ホワイトデー


「どうぞ」
「何これ」
「何って今日はホワイトデーじゃないか。先月のバレンタインデーの時はトウヤがチョコレートケーキをご馳走してくれただろう?だからそのお返しにと思って」
「ホワイトデーなんて知ってたんだ?Nはそういうイベントに疎いからてっきり知らないものだと思ってた」
「ベルが教えてくれたのさ。ホワイトデーは3倍返ししなくちゃいけないってこともね。……3倍返しになっているかどうかは分からないけど、これ、ホワイトチョコのクッキーなんだ。よかったら貰ってくれないかい?」
「別にそんな気を遣わなくてもよかったのに……嬉しいけど」
「いいんだ、ボクがやりたいって思ったことだから。一応ボクの手作りだよ。これもベルが手伝ってくれた」
「最近会えない日が続いてると思ったら、俺に隠れてそんなことやってたのか……」
「うん、それについては申し訳なく思ってる。ごめん。ボクが料理下手なせいで何度も失敗したから、予想以上に時間が掛かったんだ。でもその甲斐あって、キミに食べてもらえるくらいの出来にはなってるよ。たぶん、ね」

「…………あ、うん、確かに美味い」
「本当に?」
「本当。ホワイトチョコのなめらかさと、クッキーの軽い食感のバランスがよく取れてる。美味いよ」
「よかった……おいしいって言ってもらえるか不安だったんだ。安心したよ」
「俺のために作ってくれてありがとう、N」
「お礼なんていらないよ。喜んでもらえただけでボクは、……っ!?」
「――愛してる」
「!!……な、な、何、言って……しかも、みっ、耳元、で、」
「一ヶ月前はNから好きって言ってもらったから、今度は俺から言おうと思って」
「……言葉の『甘さ』も3倍、とか上手いこと引っ掛けたつもりなのかい、トウヤ……」
「駄目だった?」
「だ、駄目も何も……ボクがそういうのに弱いことを知っていてわざとやってるんだろう……反則だ、卑怯だ、ずるい」
「お褒めに預かり光栄です」


まともに食べられる代物をNが作れるようになるまでの過程には、途方も無い時間とベルちゃんの努力があります。
(2011/02/23)



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20.留守電


『……もしもし、トウヤ?こんな時間に電話をしてごめん、別に何か用事があったわけじゃないんだ。ただ、キミの声が聞きたくてね……。本当にそれだけなんだ。このメッセージを聞き終わったら、ボクに電話してくれると嬉しい。……待っているよ』

「ふふふふふふふ」
「……何やってんのトウヤ」
「3日前の留守電聞いてる」
「は?そんなん今更聞いたって意味なくない?」
「いや、この留守電再生するの今ので56回目だし」
「はあああ?」
「留守電を聞きながら、俺が電話に出なくてがっかりしてるNの顔を想像して悦に浸るだけの簡単なお仕事」
「……あんたの姉であることを今ほど後悔したことないわ……」



トウヤがNを好きすぎてトウコちゃんもドン引きするレベル。
(2013/02/08)



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22.飲酒


「トウヤ、これ」
「え。……赤ワイン?なんか凄く高級そうだな」
「ゼミの教授が昨日海外の出張から帰ってきてね。お土産として貰ったんだ」
「……でもNは酒にあんまり強くないんじゃなかったっけ」
「それが問題なんだよ。せっかく貰ったはいいものの、自分で飲むとなると持て余してしまいそうで……キミの親御さんはワインを嗜んだりしないかい?」
「あー……母さんは結構お酒好きだけど」
「だったら是非ともこれを、」
「やっぱ駄目」
「えっ!?」
「Nが貰ったものなんだから、Nが飲むべきだ」
「でも一人じゃ……」
「俺と一緒に飲めばいいだろ?」
「……キミ、未成年だよね?」
「だーかーら、俺が飲める歳になるまで待っててくれってこと。ワインならそれくらい置いといても大丈夫だしさ」
「あ……、なるほどそういうことか。いいよ、キミが20歳になるまで大切にしまっておこう」
「あと4年ちょっとか……結構長いな」
「その間にじっくり熟成されているはずさ。……ふふ、楽しみだね」


4年後にもふたり一緒にいることをまったく疑わない主N。こうして一つずつ、未来への約束を積み重ねていくのです。
(2013/02/08)



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24.雪だるま


「トウヤ見てごらん、庭一面に雪が積もっているよ!」
「天気予報で思いっきり雪マークだったからなあ」
「雪は自然が生み出した実に素晴らしい現象だよね……雪の結晶の計算され尽くした形ときたら!黄金三角形も真っ青の完璧なフォルム!あれほど美しく整った数式が当たり前のように生成されているなんて、自然界は奇跡で満ち溢れている!そうだろうトウヤ!」
「いや、俺はNのそういう所だけはよく分からない……」
「自然界に存在する数式の美を解さないとは、キミは随分と人生を損しているね。雪を見て目を輝かせたことはないのかい?」
「普通に雪は綺麗だと思うけど、数式とか完璧なフォルムがどうこうとか考えたことはない、っていうかそれが当たり前だし」

「……仕方ないね。ボクにはキミに、雪がいかに美しい数式的集合であるかということをみっちり教授しなければならないようだ」
「は?別に教えてほしいとは一言も…」
「一刻も早くコタツから出るんだトウヤ。ボクたちには、雪だるまを作る過程にどれほどの計算式が必要かを確かめる義務がある」
「ちょっ、引っ張るなN、せめてこのみかんを食べ終わってから、」
「キミはみかんとボク、どちらが大事なんだい!?」
「いやその二択はおかしい」
「つべこべ言わずにコートを着るんだ、さあ!」
「はいはい」


雪が降ったことでテンションが異様に高いNさんと、それに振り回されつつ付き合ってあげるトウヤ。
この後、2人は綿密な計算の元に作られたパーフェクトな雪だるまを完成させます。(2013/02/08)



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25.バレンタイン


「確かNって甘い物好きだったよな?昨日の夜に作ったケーキがあるんだ。食べる?」
「もちろん食べたいに決まってるじゃないか!トウヤの手作りお菓子、いつも楽しみにしてるんだよ」
「どうも。……はい、これ。レシピ見ないで作ったから完全に自己流だけど、一応ガトーショコラのつもり」
「わあ……!なんだか食べるのが勿体ないかも」
「これはNの為に作ったんだ。食べてもらわなきゃ意味が無い」
「じゃあお言葉に甘えて……いただきます」
「……」
「……(もぐもぐ)」
「……どう?」
「――美味しい!やっぱりトウヤは凄いよ。こんなに美味しいものを簡単に作れてしまうなんて」
「昔から母さんにみっちり仕込まれてきたからな……そのおかげでNが喜んでくれるなら、いい」
「ボクはトウヤが作ってくれるお菓子が大好きだよ」
「……他には?」
「え?」
「他に言うことは?」
「えーと、その」
「……」
「……お菓子も好きだけど、ボクはトウヤの方がもっともっと……好き、だよ」
「……俺も」



ばかっぷる乙。バレンタインの夜は必ず二人きりでトウヤお手製ケーキを食べます。
(2011/01/27)



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