「やぁ、また会ったね」
「…またあなたは、」
いきなり部屋に現れて、偶然を装う姿に呆れた溜め息を吐く。私の気持ちを何も知らないくせにこの人は忍術学園へやって来る。帰りか行きがけか、私の前に現れて私をからかうだけからかって姿を消してしまうのだ。目的は保健委員長だって分かっている。けれど、私の所に寄ってくれてる事に対して、淡い期待をしてしまわないわけがない。
「そうそう、今日は土産を持ち合わせているよ」
「珍しい、忍たまではなく私に?」
私の言葉には答えず、ただ袖に手を入れてごそごそ漁ると、和紙の包みを取り出して私に差し出す。しかし、受け取れる訳もなく、私は視線を彼――雑渡昆奈門の顔とそれとの間を行き来させた。
「なに、毒の心配?」
「…」
「忍者の卵に毒を盛るなんてしないさ」
「貴方の言葉を信じると?」
「いいや。でも、もし君に毒を盛るとしたら、惚れ薬を盛るね」
また、からわられている。ぎゅうっと眉間にシワを寄せて、もう一度和紙の包みを見る。
「もしかして、警戒してるのか?」
「…なにを今更。ここは忍術学園、さらにくの一の敷地に無断で入るなんて」
「そうだな、一人の女子生徒に土産と称した毒物を食べさせ、よからぬ事を企む曲者、ってとこ?」
「…自分で言ってどうするんです」
でも私は心の中ではそれを期待している。表では平然を装っているが、内心相当舞い上がってしまっている私は、どうすればいいだろうか。
「で、今日はどういったご用件で?」
「いやね、ちょっと君といろいろ話をしたくなって。袖の下を持ってきただけだよ」
「……お茶、淹れますね」
「お構い無く」
よからぬことが起こればいいのに
title by 棘
20121019