いつからだったか、ふと彼女の綺麗な笑顔に今までのように特別な物を感じなくなっていた。
二人で居るときだって気付けば時計を見ていたし、早く帰る時間になれとすら考えていた。物欲しそうな顔でねだってきても、私が口でしてもらうだけだった。こんな微妙な気持ちでもイケるもんなんだなあとか思って、口に含んだソレをこくりと喉を鳴らして飲み込んだ名前の頭を撫でてやる。そうしてやるとまた綺麗に笑うのだ。ああそうか。それでもイケるのは私がこいつに私を仕込んだからか。一から十まで手取り足取り私がいいところと私が感じるいい仕草だとか、どのタイミングで少し力を込めるかとか細かな所まで。名前の知識すべてが私が仕込んだ私のための私にしか通じない技術だ。よくもまあここまで育てたなとか、よくもまあ私の言う通りに今までやってきたなとか、思わず笑ってしまう。

「雷蔵?」
「いいや、なんでもないよ」

私が、君の愛す不破雷蔵ではなく本当は不破雷蔵の顔を借りる鉢屋三郎だったなんて。
私が笑うのを不思議そうに見つめて、何度か瞬きを繰り返すお前はきっと薄々も気付いていないんだろうな。本当に救いようのない馬鹿な女。

笑い過ぎて腹が捩れそうだ。





20150507