最初はただ、忍者に向いてないんだろうなって思ってただけだった。だって、あの人は怪我をしている人がいたら迷わずに手当てをするだろうから。でも、それは悪いことではないけど、彼の場合見境が無さすぎるのだ。実習や宿題で合戦場へ向かった時だっていつの間にか合戦で怪我してしまった双方の怪我人を手当てし始めている。極端に言えば自分を殺そうとした人物が怪我していても、彼は自分の身を守る事よりも先に、その人の怪我の手当てを優先するだろう。きっと手当てする前に殺されてしまったら、死んでも死にきれないだろうと思う。彼はそういう男だ。

しかし彼は不運だった。何かとその不運に襲われているのを見たことがある。補充用のトイレットペーパーを彼らしくもなく欲張って両手いっぱいに抱えていた時だった。ちょっとした段差に気付けなかったらしくそれに躓き、咄嗟に出た手によって大量のトイレットペーパーはバラ撒かれてしまう。
手は出したものの途中にあった柱に甲をぶつけてしまい、腹に抱えるように体を丸めたために最初に着地を決めたのは彼の顔面。痛みのあまりに声も出ず、次の衝撃は体を丸めるのに曲げた膝が受け止めた。

「〜〜っ」

声にもならなかった声が彼の口から弱々しく抜けていく。痛みを感じる部位に痛みを訴える手を添える事もできず、体の力が抜けて全体が傾いた。傾いたが、傾いた方向が悪かったらしく、そのまま彼の体は外へと転がってしまった。それで終わればいいものを、さらに転がった先に設置されていた落とし穴に落ちてしまうのだ。なんという不運。ここまできたら才能なのでは、とすら思えてしまうのだ。

「おやまぁ」とお決まりの台詞と共に地下から上がってきた善法寺伊作が見ているこちらでさえも痛みを感じてしまうほど痛々しい顔をしていたのを覚えている。


「巻き込んでしまって、本当にごめん」

ああ、そうだ。別件で巻き込まれてしまったんだった。思い返せば思い返す程に不運な人だとつくづく思う。今回だって、あえて状況の説明はしないが例の落とし穴に落ちてしまったのだ。もちろん、彼の不運によるものだった。私も反射的につい、私の力で男の子一人を支えきれる訳もなかったのについ手を伸ばしてしまって、一緒に落ちてしまった。

「手首、固定するから動かないで」

善法寺伊作は相変わらず他人の怪我ばかりを気にかけていた。落ちてしまう途中だって、私を庇って下敷きになったくせに私が反射的に痛がってしまった私の手を取って、謝られてしまった。
たしかに、怖かったし痛かったし驚いたし、今日の私は不運だったと思った。だけど、そうは思いつつ、善法寺伊作が自分の頭巾を取って私の手首に少しキツめに巻き、固定する作業を見ていて、不思議と私の気持ちは落ち着きを取り戻していた。

暖かい大きな掌

きっとこの優しい手が、彼が保健委員会委員長である理由なのだろう。きっとこの暖かい手が皆の不安な気持ちを安心させてくれて、安心を与える代償として彼が代わりに不運を受けている。

それが彼の不運であり、心優しき保健委員会委員長である所以なのだろうと思った。

殺す忍者がいるならば、救う忍者も必要なのかもしれない。



20121008

暖かい大きな掌
title by 暝目
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