生きることって何なのだろう。町の中を歩き、雑踏に揉まれながら私はふと思った。がやがやがやがや、様々な言葉や音が交差するここが私は好きで、時間を見付けては独特の騒がしさの中に身を置いた。いつもは一人なのだけれど、今日は珍しい付き添いが私の隣で眉間に皺を寄せている。
「…人が多いな」
「私、ちゃんと最初に言ったよ。お祭りが近いらしいから人が多いかもって」
「そうだったか?」
少々不機嫌そうな顔をして彼は私の少し前を歩いて先導してくれる。特に行き先もなければ、町へ来た目的も具体的にはない。ただ、私が雑踏に揉まれたかったというだけだ。お祭り前の雰囲気もなかなか楽しい。町の人、皆の顔がイキイキとしているんだから、きっとお祭り当日は大盛況だろうな。
「しかしお前も物好きだな」
「おや、鍛練しか頭ないギンギン潮江に言われても」
「なんだと!?」
「説得力ないって話」
途中の団子屋で団子を一本ずつ買って、食べ歩きしながらの町見物。っていってもお祭りの準備に勤しむ町の人を見てるだけだけど。
「町でさ、何か頑張ってる人見るのが好きなの」
「あ?」
「まだ怒ってるの?」
「うるせ」
「…まぁいいや。でね、頑張ってる人見て、頑張らないとって思うの」
こんなにも町は元気で日々絶えることなく動いている。
もしかしたら、あるところでは戦に巻き込まれてしまっているところだってあるかもしれない。少なくとも、私が住んでいた町は庇いの制札すら貰えずに荒された挙げ句真っ赤な炎に飲み込まれてしまったのだ。今でも鮮明に思い出せるほどの赤。とても酷い最期だったと、私の記憶にある。
「…」
いきなり潮江の手が私の後頭部を掴んで、そのままがしがしと動かしだした。
「なに、してんの」
「だっ、黙ってろ!」
なにしてんの、本当に。とりあえずされるがままでいると、ぎこちない動きがなんだか心地の良いものに感じて目を細めた。あったかいなぁ、潮江の手。
「お前の息抜きは、息抜きじゃない」
「…いま、息抜きしてるじゃない」
「だからそれが違うって言ってんだよ。お前の場合、町へ出掛けて雑踏に揉まれているのは息抜きじゃない」
「なに言って…」
頭を動かそうとすれば潮江の手の力が強くなって動かせない。
「お前は自分を苦しめてる。それすらに気付けないのは鍛練が足りんのだバカタレ」
「な、にを」
「見てれば分かる。お前はお前が住んでいた町とこの場所を重ねているだけだ」
「…そんなこと、」
でも、たしかにここに来るたび思い出してしまう。思い出して、悔しくて、でもだからこそ頑張ってる人を見て、私は
わたし、は
「だから、それが結果的に自分を苦しめてるって言ってんだよ」
明日から、お前を叩き直してやる。
「だから、…泣くな」
なりそこないの虚勢/瞑目
20121121