彼の目はいつも鋭かった。何を狙っていたとしても、彼の火縄の弾丸が的を外れるなんてことは、地上が引っくり返らない限りあり得ないだろう。まるですべての弾丸が照星さんの息が掛かって意思を持ったように美しい一直線を描いて飛んでいく見事さ。初めて見た時の衝撃。今までに感じた事のなかった衝撃が私の中を駆け巡ったのを覚えている。忍びとして、狙撃手として、一人の人間として、照星さんは私の憧れであった。

しかし、気付いてしまった自分のこれはなんて鉄面皮な感情なのだろうと、何度自分を嘲笑ったか分からない。しかし、何気ない言葉を交わす度に私の中の何かを確かに震わせる彼の低い声。紡がれた言葉一つ一つが私の中に積もっていくばかりでしかなくて、私はいつも頭の中の引き出しからそれを持ち出しては酔いしれていた。私の中の奥深くにだけに止めておけば問題はないのだ。ただ、その一つ一つの言葉が私中に染み渡らないように気を付けなければいけない。故に私は引き出しの中にだけしまっておいて、ほんの少しの心の拠り所にしている。

「名前、今夜は冷える。先に休め」
「いいえ、私は平気です」

なんて言うのはただお側に居たいだけなんですよ、照星さん。知っていますか。
私の名を紡ぐ度、その声に、唇に、温度に、何度触れたいと思ったか分からない。ああ、私はなんて事を想ってしまっているのだろうか。仮にも忍者、くのいちだ。冷静になんでもないように振る舞わなくてはいけない。しかし、私の中に存在する黒い影が私に素振りを見せろと囁いてくる。素振りを見せろ、そうすれば優しくしてもらえるぞ。素振りを見せろ、そうすればその唇を重ねてもらえるやもしれん。素振りを見せろ、ほらすぐそばにいるのに。素振りを見せろ、素振りを見せろ。
その言葉は言わば誘惑という毒。素振りを見せて、言葉で伝えて、それでどうなると言うの。私は、私達は忍びなのよ忘れたの?やめろやめろ。頭を二、三度振ることによって一蹴するが、なかなか耳から剥がれようとはしてくれない。

「では、そうだな。話し相手になってくれないか」

ああ、なんてこと。しかし心の奥に芽生えるそれを力一杯に押し込める。笑え、いつも見たいに笑うんだ。違和感なく、いつものように誤魔化すんだ。

「照星さん、珍しいですね」
「珍しい、か?」
「えぇ、私は、そう思います」

私を話し相手に、選んでくださるなんて。抑え込んだ手の内で疼きだすそれ。隙を見てはすぐに出てきたがる私の気持ちに私は手を焼いた。

いけないよ。自惚れてはいけないよ。別に私だからと選んでくださった訳ではない。 そんなはず、あるわけがない。

「…お前はよく空を見ているな。昼でも夜でも、いつも暇があると見上げている」
「あ、いや、すいません…別に作業をサボっているわけでは」
「いいや違う。なにも説教しに来たわけではない」
「…?」
「私がつられて見上げても、何があるわけでもないからな、」

この時照星さんの顔をハッキリと自分の目に映した。でも、本人はずっと遠くの空を見ている。ひんやりとした夜風が頬を撫でていき、隠しておいた私の気持ちまでをも連れてくる。

「嬉しい、です」

それが精一杯だった。すると、よく分からないと言ったふうの顔をした照星さんの顔がこちらに向いた。暖かい、温かい、とても優しい表情をしているように思う。

鉄面皮。恥知らずであつかましいことや人。まさに私だろう。私はこの人の言う何気ない一言を私の良いように聞き捉えている。厚かましくも、照星さんの姿を目で追い、恥知らずなことに彼の言葉を一つ一つ拾い上げ、頭の中で大切にしまっている。胸の内じゃないのは、せめてもの自重心だろう。

しかし、どうこう言う以前の問題が。私や照星さんは"忍"なのだ。だからこそ恥知らずであつかましいこの気持ちは重くて悲しいくて辛くて、でも時にはとても暖かい。心の拠り所なんて、大袈裟なのかもしれない。でもたしかに照星さんの言葉は私の支えで、強味。しかし、どんなに言い訳をして遠回りを繰り返ししたとしても、それでも、結局辿り着く答えはそれが私に対する愛であってほしいと、いうことだった。





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企画:君への愛が叫べない様に提出

あばかれてしまう/棘
20121117
素敵な企画をありがとうございました!
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