朝日と五等星 | ナノ




自称、園芸委員会。私が勝手にそう名付けて、中庭の一部で草花を栽培している。勝手にやっていたことだけれど、何年も続けているといつの間にか定着したらしく、授業や忍たまの作法委員会などが草花を使用する際に私が育てた花を用いることが多くなった。
それから同級生や後輩達も世話の手伝いをしてくれるようになって、いまではくの一教室のほとんどが(自称)園芸委員会所属だと言っても過言ではない。
最近、薬草にも手を出そうかと考えている。こっちでも育てていれば、伊作くんの所で育てていたものが不足した時などに役に立てるだろうし、私達もわざわざあっちまで貰いに行く必要もなくなる。一石二鳥じゃないか、今度種を分けてもらおう。なんて、鼻歌を歌っていると、くのたま達が騒ぎ出した。またか、ああまた来たのだ。かの有名な町の髪結い処のご子息でありながら忍術学園に編入し忍者の道を目指す、さすが髪結い処の、と言ってもいいくらい手入れの行き届いた忍ぶ気なんて皆無な金髪を持つ、斉藤タカ丸だ。編入してからその斉藤さん家の息子さんは、くの一教室の皆に引っ張りだこなのだ。さすが髪結い処の息子さん。そのまま忍者の道を諦めて自宅に戻って父親の髪結い処を継げばいいのに。
昔は父さんみたいになりたいんだ、って言ってたじゃんか。この間だって、いや、別に町まで出掛けるついでにお店覗いたり、変装してお客さんになったりなんか……したけど。したけど誰も知らないし、そのときだって髪結いで生きて行きたいみたいに言ってたのに。なんで今になって忍者なんかに。いや、私も忍者になるためにこの学園に六年も通ってるんだけど、これじゃあ何の意味もない。
ざく、ざくざく。クナイで土を耕しながら少し遠くの方で聞こえる黄色い声は聞かないふりをした。ざくざくしてるとしだいに周りの音が聞こえなくなり、いつの間にか耕し終わっていた。あとは植えるだけ。
さて、本題はここから。花壇もそうだが、斉藤タカ丸のことだ。額にうっすらかいた汗を手の甲で拭い、一息つく。

私とタカ丸は幼馴染みだ。昔はよく遊んでいたし、近所の人から双子の姉妹みたいだとか兄弟みたいだとか言われたこともあるくらい仲が良かった。
歴史を遡ると、私の祖父と斉藤幸丸さん――つまり、タカ丸のおじいさんは同じ忍者隊に所属していたらしいのだ。それはそれは仲が良かったらしい。私の祖父がまだ若い内に忍者をやめてしまって、町に店を出した。それが呉服屋で、私の実家だ。二人は絶縁状態にもなったんだけど、ある日、突然幸丸さんが町にやって来て髪結いの店を出したのだ。それがきっかけで二人は再会。私の父の代までその仲は続いていて、今に至る。ちなみに私は幼い頃から祖父にその話を聞かされていたから、斉藤家もみよじ家も元々忍者の家系であることは知っていた。タカ丸がそのことを知らないことも知っていた。祖父は知らない方がいいと私に言っていたから私からこの話をした事がない。

だから、学園の食堂で会ったときにタカ丸は心底驚いた顔をしていた。

「……そういえば、なんで幸丸さんは急に髪結い処を始めたんだろう」

忍者をやめたから?でも、やめたらしいなんて一言も聞かなかったし、どうして髪結いになったのって聞いた時だって変にはぐらかされた。
仮に、まだ忍者だったとしたら?忍者で、何かの忍務をこなしていて、それで町の人に紛れるために髪結い処を始めた、?

気づけば最後の一つになった苗を手に取って気付く。

"穴丑"だった可能性がある。

たしか前にタカ丸の命を狙ってきた忍者が学園に来たらしい、と友人や後輩たちが言っていた。ってことは、多くの情報を握られているということになるだろう。

命を狙うってことは、それなりの理由がある。穴丑として髪結いを始めたら、そこで昔の友人と再開。店は繁盛し、流れでずるずると髪結いを続けていたら…。

「抜け忍扱いになってしまった、とか?」

だって、ずっとずっと髪結いをしてた。祖父や父が何度心配を口にしていたか分からない。あの時の私は祖父や父の言葉が実際どんな意味での心配なのかを理解できるほどの頭はなかったし、今の私だって、正直タカ丸にまでそれが及ぶなんて思ってもみなかった。



知らないうちに、こんなに近い所まで来ていたなんて。


口にするのは容易いけれど
彼を、彼の家族を守るためならば

title by 瞑目
20121001

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