最近よく何かと私の正面に座って、人を小馬鹿にしたような性格の悪さが滲み出るニヤついた顔で食事を摂る立花仙蔵が、いつも以上に意地の悪そうな顔をしていたら要注意であることを皆に伝えたい。それは何か(特に私にとって)とても悪いこと企んでいる、あるいはその企みが進行しているということだ。一番怖いのは後者で、いつの間にか巻き込まれ、すでにどうにもならない事になってから気付くことが多いからである。
きっと、まさしく今がそうなのだが、かろうじてまだ私の心にはテーブルの幅ほどの余裕が存在している。いい加減にウザったくなったそのニヤついた顔に視線を移し、小さく息を吐いた。
「で?」
「で、とは」
「何を企んでそこに座ったの?」
「企む?人聞きが悪いな」
「…他に何があるの」
「企むもなにも進行中だ」
「……」
なんとまあ。しかし、進行しているのだと私に告げたってことは、私が標的のものではないということだろうか。
「火薬委員会は忙しいか?」
「…事の発端は自分なのに、そういうこと聞くのね」
「お前はわりといろんな委員会を手伝っていただろ」
「いろんなって、作法と保健ぐらいだよ」
いや、手伝っていたと言うか、くのいち教室の掃除中の逃げ場にしていたと言うか。言い方は悪いか利用していたのだ。でも結果的に手伝ったりしたが、それが目的でそれぞれの委員会に行ったことは、あまり、ないはず。
「そういえば小平太の奴が」
「小平太の話はしたくない」
「なんだ、まだ怒ってるのか」
「っな…!園芸委員会の花壇をぐちゃぐちゃにしたあげく全部をただの雑草扱いしたし、焔硝倉に穴開けて逃げたんだよ…!!?」
「謝りはしたんだろう?」
「笑いながらね」
「…目に浮かぶな」
「その後、後輩達がちゃんと謝りにきたけど、なんだかね
思い出したらなんだか腹が立ってきた。お漬け物の歯ごたえに集中しながら、ご飯の盛られた茶碗を持つ。
ジッと、珍しい物でもみるような目をして私を見ていた仙蔵が咳払いをした。
「…だがな、」
「なに」
「斉藤が、よりによって小平太に」
「待って、嫌な予感がするから言わないで」
「くのたまの言う"色の授業"とは何だと、聞いたらしくてな」
少々声の音量を落とした仙蔵に私は目を向けて、無意識に眉間にシワを寄せた。
箸を握る手を降ろして息を飲む。小平太のバカ野郎はまさか変なことを吹き込んだんじゃないだろか。でも、昼間に私が聞かれたときにちゃんと答えなかったから、小平太に?でも、一応授業内容として認識していたはずのタカ丸が、それを小平太に聞くのもなんだか違う気がする。
「…ああ、もちろん小平太に聞くまでに至った経緯はあるが、話すと長い」
「それで、小平太はなんて答えたの?」
「"今夜の酒盛りで語り合おう"」
なんでそうなった。
「あ、長次は?長次が止めたんじゃ」
「その長次が、今回調達してきたんだ」
長次が調達したってことは、長次が主催で場所はろ組に集まるってことかな。
「お前も来るだろ?」
「……行けない」
「ほう?」
「…忍務を入れたの」
「ならば都合がいい。今夜お前の斉藤タカ丸と親睦を深めることにしよう」
空の食器をおぼんごと持ち上げた仙蔵は、自慢のサラストヘアーを靡かせながら食堂を後にした。
なるようにはならない
その後も、私は構わず食事を続けた。意地の悪い笑顔が引っ掛かるが、彼が性悪なのは今に始まったことではない。
20130312
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