すきなんだな、ってただ唐突に直感的に思った。すきなんだ。僕はなまえちゃんが好きなんだ。そうしたら今までのモヤモヤがスッと消えていくのが直ぐに分かった。なんだ、認めてしまえばこんなにも簡単なことだったのかと思わず口元が緩んでしまう。
今までは"幼馴染み"の枠に囚われていたのだ。ずっと、物心が付く前からずっと一緒に居て、一緒に遊んで一緒に笑って泣いて、双子のようだと言われるくらいにずっとずっと一緒だったのだ。
だからこそ、僕達のこれからに変化が欲しくなった。
気付いたらなまえちゃんを押し倒す形になっていて、僕だって四年生だけど十五歳の健全な男子だ。なにか、してしまわないかと不安になったが、なまえちゃんの薄い唇が目に入って鉢屋くんが頭に浮かんだ。それが気に食わなくて悔しくて腹立だしくて、そして、悲しかった。状況がどうであれ、彼がこの唇に触れたのは事実。この目で見たんだ。
気を紛らわそうと彼女の頬を見る。するとなまえちゃんの頬の、うっすらと染まる赤みがなんだかどうしようもないくらいに可愛かった。ここに来ていろんな女の子と話す機会がいっぱいあったけど、やっぱり群を抜いてなまえちゃんが可愛い。これは僕の自慢だ。
いつの間にか彼女の頬に触れていた。指から熱が伝わってきて、頭の先から足の指の先、体全体に一瞬で熱が広がる。この熱さえ愛しい。そう思ったら、僕の指がなまえちゃんの唇を撫でていて、気付いたら自分の唇から直になまえちゃんの唇を感じていた。温もり、鼓動、感情、すべて、お互いのなにもかもを理解できているような感覚。せめてこれで僕の気持ちだけでも、伝わればいい。そう思うのと同時にすごく心が満たされてくるのが分かった。
この時、この瞬間だけはなまえちゃんは僕のもの。ああでも、鉢屋くんも唇を重ねた瞬間そう思ってたりして。なんて考えて、それでも今は僕のものだとそんな自己満足の優越感と昔よく感じていた独占欲が僕を満たす。重ねている間、今までの空白の時間、そのすべてがここにあると思えた。愛しい、こんなにも愛しいのに。
「タカ、丸」
なまえちゃんの唇まであと少しもない距離。その瞳から止めどなく溢れて出てくる涙。僕と同じ気持ちなのかな。でもちょっと前のなまえちゃんの言葉が、薄い壁となって僕らを隔てていた。「このままじゃ私達、きっと……」きっと、あの頃のような幼馴染みに戻れない?こんなにも愛しいのに、あと少しでもう一度触れられるのに。でもこれは君の言う"幼馴染み"のするようなことじゃ、ないよ。さっきのだってそう。なまえちゃんだって、それは分かってるよね?ねぇ、それでも幼馴染み?
「これでも僕達は、まだあの頃みたいな"幼馴染み"のまま?」
唇よりも先に鼻同士が触れ合って、どうしようもないくらいに僕は我慢できない気がした。好きだよ、好きなんだよ。自分の唇を撫でる彼女の吐息にふわりと目眩すらした。
愛してってお願いしてみてよ
君の涙を拭う余裕さえない僕に、
title/現実主義者
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