▼ 参
何度も夢を見た。
楽しい夢、嬉しい夢、悲しい夢、苦しい夢?わからない。
だって目が覚めるといつも夢の内容を忘れてしまうから。
忘れてしまうくらいなら見なければいいのに
交換
放課後までの授業は酷く長く感じた。別に勉強が嫌いというわけでもない。それ以上に劉黒に思い出してもらいたくて、早く自分を知ってもらいたかった。それ故、妙に心音がいつもより騒がしかった気がした。
『そういえば、劉黒はお前との記憶持ってんのか?』
HRが終わると白銀はて早く荷物をまとめて鞄を肩にかけた。ノートとペンは手で持ったまま。
「え?」
『朝、廊下で話してた時そんな気がしたから』
「…うん、そうみたい。でも名前と顔しか覚えてないっぽくてさ」
変だよね〜って言いながら笑う洸を少なからず羨ましいと思った。
(…俺は顔も名前すらも忘れられている)
「だ、大丈夫だーって!あんなに劉黒と白銀サンべったりだったんだもん!きっとスグ思い出してくれるって!チョット今ド忘れしてるだけだからさ…!」
俺の顔色を伺ったからか 焦るように笑って洸が言った。
…つか ド忘れなんかしてたらアイツマジでぶっ飛ばしてやる。
『犬のくせに生意気だな糞餓鬼』
その頃は劉黒が洸を覚えていたように きっとすぐに思い出すだろ、と俺は前向きな気持ちだった。
-----------------------------------
----------------------
「んじゃ、改めましてー、こちらが劉黒で」
「これからよろしく頼む」
「んで、こっちが白銀。チョット病気で声が出ないみたいだから筆談で」
『よろしく』
「白銀さん、先程は失礼な事をしてしまったようですまなかった」
そういうと劉黒がペコリと頭を下げた。だから俺は首を横に数回振った。
「洸の友人だから私も白銀さんと仲良くなりたいと思う。…だが 第一印象がアレだと難しいだろうか…」
顎に手を当ててウウンと一人で難しそうな顔をする劉黒。悪いのは俺の方だったはずなのに…。
『俺もお前とは仲良くしたいと思っている』
俺もペコリと頭を下げた。さっきは悪かった、という意を込めて。
すると隣にいた洸が 白銀がデレたーーーー!!って騒ぎ出したから殴ってやった。
「白銀がこーやってデレるのってすっごいすーーっごい珍しいんだよ!劉黒!」
殴られ赤くなった頬を擦りながら劉黒の隣へ行きまた騒ぐ。
「お、おお…!そうなのか!…そして大丈夫か?」
「あはは〜慣れてるからね」
ピースしながらへらへらする洸にもう一発ぶん殴ってやろうかと思ったけど隣にいた劉黒を盾にしかねないからやめておいた。それにこれ以上劉黒に悪い印象与えたくなかったし…。
「あ、そーだ。よかったら二人共アドレス交換しといたら?」
「そうだな、もしかしたら色々連絡取り合うかもしれないし 有るに越したことないからな」
これで四六時中劉黒と連絡が取れるのかと思うと嬉しくなった。ノートの端にササッと自分のアドレスを書いて千切るとそれを劉黒へ渡した。
「ありがとう、白銀さん」
『"さん"付けしなくていい』
「そうか…?では…白銀…?」
少しぎこちなく呼ばれた名前。
懐かしくて嬉しくて胸がドキドキした。
それがなんだか恥ずかしくて隠すように笑ってやった。
「おアツイとこ悪いんだけど、白銀サン俺とも交換しない?」
ひょこっと俺と劉黒の間に入ってきたから、ノートの角を額めがけて振りかざしたらスコーーンといい音が鳴った。そして洸がしゃがみ込んで蹲った。
まあ劉黒のことについて話せるのはコイツだけだから"仕方なく"教えておいてやるか。
アドレスの書いた紙切れを押し付けといてやった。
「ふふっ、二人は仲が良いのだな」
「『全っ然』」
一連の俺と洸のやりとりを見た劉黒がくすくす笑った。俺は目を丸くして そのあと眉間に皺を寄せた。
前世でも同じ風景を見たことある気がした。こうやって俺と洸がくだらないやり取りをしてる時に劉黒がいつも笑っていたんだっけ。
ふと窓を見上げると空は真っ赤になっていた。
誰もいない教室に三人だけの広く長く続く薄暗い廊下。
校庭にはまだ部活をしている生徒が数人見えた。
そろそろ帰ろうか 、そうどちらかわからないけど聞こえて俺は頷いた。