▼ 弐
心の中でたくさんの雨が降りました。
冷たい、冷たい、雨がたくさん降りました。
腕には先程まであった温もりが微かに残っていて。空中に舞う光の粒子。粉々に崩れ落ちる心の硝子。
消えてしまった温もりを探すように 今は亡き光を求め、虚しく空を抱き締めた。
そして全てを忘れるように なかった事にするように目を閉じた。
幼馴染
キーンコーンカーンコーン。
「スミマセンでした。」(ペコリッ)
あの後二人して1限授業をサボり、何事もなかったように教室へと歩いていたら廊下で担任にバッタリあってしまい教員室へ引っ張り連れられた。
「転入し立てで色々お前も大変だろうが、先生が言ったことは守れ。朝此処へ学校の資料を渡すから来いと言っただろう。」
担任は呆れた顔をしながら白銀へ資料を渡した。それに白銀は頭を下げて受け取る。
「センセー、俺が半強制的に学校の案内してたんですよ」
「だからお前も一緒だったのか」
「そうなんです。俺と白銀は幼馴染なんで!」
「そうか。お前らは一緒のクラスだし、学校についてはしっかり教えてやってくれ。よろしく頼んだ」
「はーい」
幼馴染なんかじゃねえよ、と思いながら担任と洸の会話を聞いていた。
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(洸と一緒のクラスか…)
担任に貰った資料を抱え ぼーっとしながら教室へと向かっていた。
「何、俺と一緒のクラスで白銀サン嬉しいの?」
突然隣を歩いていた洸に心を読まれたかのように話しかけられ、顔を覗きこまれた。
調子に乗ってんじゃねーよ、って睨みつけてやると 冗談だから、と苦笑いされた。
教室に入り窓際の一番後ろにある自分の席につく。
資料を鞄に入れノートとペンケースを取り出していると、いつの間に来たのか洸が隣に座っていた。白銀は早速ノートにペンを走らせる。
『何で隣に座ってんだよ』
書き終わるとそれを洸に見せつける。声が出せない代わりの筆談なのだろう。
「昔の記憶とはいえ、こうしてまた白銀サンに会えたんだからお話がしたいなーって思って?」
『なんで疑問形なんだ。つか俺はテメェと話すことなんてねぇよ』
「えー、そんなこと言わないでさ。」
『ウゼェ』
「じゃあ劉黒ならいいの?」
白銀は目を見開くとペンの動きが一瞬止まった。でもすぐに動かしてこちらにノートを見せた。
『アイツのことは今はいい。思い出してくれるまで待つから』
切なげに笑う白銀に洸は胸がズキッと痛んだ。だがどうして傷んだのか分からなかったから気にせずにいた。
「じゃあ俺も劉黒が思い出してくれるように手伝うよ」
『は?お前が?何で?』
「ただ待つよりも思い出させる方が思い出してくれるかもしれないし、それに関わってる人数が多い方が確率高くなりそうじゃない?」
『まぁそうかもしれねぇけど…』
「…昔の記憶の劉黒、白銀サンといて凄く幸せそうだった。ほんと羨ましいくらいにね。そんな良い記憶持ってるのに忘れちゃうって勿体無いって思うし」
『そうか…』
「うん。だから手伝うよ」
『…勝手にしろ』
「じゃあそうとなれば、帰りにまた劉黒と自己紹介からやり直しだネ!メッセージ飛ばしておくよ」
洸はそう言い残すとタイミングよくチャイムが鳴り席へと戻って行った。
それから授業担当の教師が入ってきて授業が始まった。貰ったばかりの新しい教科書を開き、黒板に書かれた文字をペンで先程のとは別のノートに書き込んだ。
帰りにどう劉黒に自己紹介をしようかと考えながら。
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