長編 | ナノ


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それは太陽がぎらぎらと照りつける夏の日の出来事。
その日もいつものように自宅裏にある教会へ悪魔祓い師の仕事をしていた。

「劉黒、おはよー!今日も暑いね〜」

祭壇に向かって祈りを捧げていると後ろから大きな扉が開くと同時に聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ああ、洸か」

後ろを振り返り相槌打つと、洸と呼ばれた青年は劉黒の元へ歩く。
この青年は幼い頃から劉黒の親しい友人であり、よくこの教会へ通っていた。今では劉黒の助手等をやっているため、こうして週に何度か協会へ訪れる。

「来るたび思うけど、ここってほんとに涼しいよね。空調付いてるわけでもないのに」

「そうだな」

この教会は不思議なことに年中季節問わず冷たい空気に包まれている。だからといって、薄気味悪さとか邪な雰囲気が漂っている訳でもない。寧ろ澄んだような、心が洗われるといったような感じがとても心地良い。

「ねえ、劉黒。久しぶりに今夜一緒に食事でもどう?」

にこっと笑いかけながら誘う洸に断る理由など無い劉黒は ああ、勿論だ。と頷くと そうこなくちゃ!と言わんばかりに洸は手を叩いた。
洸の作る料理はどれもレストランのプロ顔負けな程で、それはもうとても美味しい。こうして誘われることがあると大事な用がない限りいつも誘いに乗っているのだ。

「じゃあ、今日は劉黒の好きな果物を使ったスイーツも作ってあげるから楽しみにしていてね」

「ああ」



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それから今日の仕事を終え、劉黒は洸の自宅へ行き夕食をご馳走になった。仕事の話や世間話などをしながらゆっくり食事を堪能していたら辺りはすっかり黒の静寂に包まれていた。時刻も既に日付が変わろうとしていたから気を利かせた洸は 泊まっていけばいいと言う。だがその優しい気遣いを断り、ゆったりした足取りで自宅へ向かった。

外出するときは大抵大回りをして自宅へ向かうのだが、この日は何となく教会を通じて自宅へ帰ろうと思い方向転換。ついでにお祈りもしていこう。
そして、教会へ着くと何故か扉の鍵が開いていた。

「(鍵は掛けて行ったはず…)」

不審に思い恐る恐る静かに扉を押した。
中の灯りは消えたまま、外と同じ静寂。そのまま警戒しつつ辺りを見回すと、月明かりに照らされた人のようなモノが祭壇の上に横たわっていた。それに気付かれない様に足音を控えめに歩み寄ると驚愕した。
真っ白な細く長い糸が流れ、その隙間から覗かせるさらに雪のように透き通った白肌。整った顔立ち。少し開いている艶のある真紅の唇からは妖艶さが滲み出ていて 美しい、と素直にそう思った。規則正しい息がスースーと漏れていたことから多分眠っているのだろう。
何故こんな場所に女性が?と疑問が浮かぶとそれはすぐさまかき消された。
普通人間にはない黒の立派な羽が腰から生えていた。
悪魔か、そう思い後退りをすると持っていた手から鍵を滑らせ冷たい大理石の床へ落ちる。

カシャン

落ちた金属音が静寂の室内に響き渡ると、その悪魔は んん、と唸らせ上体を起こしゆっくり目を開けた。劉黒はしまったと思いながらそのまま悪魔の様子を見つめた。

「…ぅん…?」

白の長い睫毛を震わせ蒼の瞳が紅の瞳と交じり合う。


「お、起こしてしまってすまない」

乾いた口から出た言葉がそれだった。
すると段々覚醒した悪魔は一瞬驚いた表情をしたが、すぐ不敵な笑みを浮かべて思わずドキッとした。悪魔は畳んでいた腰の羽を広げ、祭壇から降りると蒼の瞳を真っ直ぐ向けたままゆっくり劉黒に近づいた。

「エクソシストか?」

「え、…ああ」

「…ふーん、でもそこらのやつとは違うんだな」

「?どういうことだ」

「"こういうこと"」

そう告げるといつの間にか開かれていた距離が縮まり、その綺麗な悪魔の顔が目の前でいっぱいになった。それと同時に唇に柔らかい感触を感じてすぐに口付けられたと理解した。

「!」

「想像していたより甘…。でもすげー美味い」

蒼の目を細め、頬は少し朱く染めて舌なめずりをした。ただそれだけの行動なのにドキリとまた胸に響いた。

「俺はインキュバス、白銀だ。久しぶりにこんな美味いやつと出会ったな。お前、そんじょそこらの女よりも美味いぞ」

わけも分からず頭の上にクエスチョンマークを浮かべて目をパチくりしていると、お前危機感とか感じねえの?と尋ねられたから 不思議とお前からは何も感じられないと答えたら白銀と名乗った悪魔は吹き出して笑った。(笑った顔もなかなか可愛い、)

「普通悪魔みたら、拒絶して祓うだろ」

「対悪魔だからといって、私とて非道ではない。悪意の感じられない奴に祓う理由はないだろう」

現に白銀は自分の名を名乗っているのだ。干渉されることを嫌う悪魔は自分の名を名乗ることはまず無い。ましてやそれが悪魔祓い師となると気軽に名乗るなど有り得ない。それを知っているから、この悪魔からは悪意を感じられないと劉黒は理解していた。
その言葉に白銀は目を見開き驚くと、複雑そうに眉を顰めた。

「本当変なやつ。…でも気に入った」

小さくぽつりと呟く白銀の頬は心なしか赤に染まっていた。







(インキュバスってことは男か!!)
(あ!?女だと思ったのかよ)


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