君へ夢幻の感情を、 | ナノ


◎霞む君から藍の手を

下がもう見えないぐらいの真っ白い空間に足を踏み入れてみた。風か雪を運んでくる音以外には私が雪を踏みつけた音しかしない、そんは静寂の空間だった。

白銀の頂。そう表現する以外、この空間に相応しいものはないと思う。むしろその表現はこの空間のためにあるようなものだ。


ふう、と一息つく。体内から排出された二酸化炭素を多く含んでいるだろう空気は白く染まり冷たい空気と混じりあった。

ここは異様に寒い。年がら年中吹雪いているだけある。聞いた話によれば、年に数回だけここでダイヤモンドダストが見れるだとか。


それはともかくこんな山登りだって分かっていたのに半袖着てきた私を呪いたい。パーカーも持ってきたが今はリュックの中でモンスターボールをくるむのに使われている。はい残念、というやつだ。




腕を擦って温めながら足を進める。そのリズムに合わせてさくさくと音を鳴らす雪の冷たさが靴を通し伝わってくる気がする。

一歩進めるごとに胸に何かの感情が積み重なってくる。この感情は何だろうか。希望か、期待か、それとも未知なるこの道の先への興奮か。まだ私には分からない。


ここにくるまでの途中で何度も洞窟の中に入り、出てを繰り返した。そのとき崖や階段のように舗装されているところを通っているので余程この山頂は高いところなのだろう。彼は、この場所にいて寂しくならないのだろうか。ふと心をかすった気がした。







寒さに耐えながらも少しずつ足を進めると、やがて赤い誰かが視界に入った。

誰とまだ確定した訳ではないのに、私の中には何かの感情が渦巻いていた。ああ、きっと彼だ。


彼に近づくように歩幅を広げ、止まっていた足を再び動かす。寒さで悴む指なんてお構い無しだ。

彼はこちらに気づいていたようで、その美しく艶めく髪とだいぶ年期が入っており愛用していると思われる帽子の隙間から除く口角が小さく上がったのが見えた気がした。




「初めまして」

彼の前に立ち、言葉を発する。久しぶりだったからかこの寒さからかは分からないが自分でも情けないくらい小さく震えていた。彼からの返事は、ない。

「白銀の頂に座するリーグの覇者」

静寂の中に自分の声だけ響く。緊張のおかげか、心臓がどくどくと音を立て次の言葉を催促している。



「レッドさん、ですね」



暫しの沈黙。もう迷いはない。どちらとも言葉を発しなかったこの空間を先に壊したのは彼だった。


「…ご名答。よく分かったね」

「頼もしい友達がいましたからね」

「ていうか、なんで敬語なの」

「顔を見て話すのと交換日記と違う感じがして」

私がそう返せば、そうと興味なさげに言われた。そして彼…レッドさんは徐にベルトに手を伸ばすとそこから一つのモンスターボールを取った。反射的に私もリュックの中からボールを取り出す。

「カノン、バトルでもしようか」

「勿論です」

モンスターボールを地面に投げる。赤い閃光から現れたのはピカチュウとリーフィアだ。お互い顔を見合わせニコニコと仲睦まじいご様子だ。だが、私とレッドさんがそれぞれ名前を呼べば二匹とも、今にも戦いたいという思いを胸に押し込めているのがよくわかる生き生きとした顔で構え始めた。


「マサラタウンのレッド」

「ヤマブキシティのカノン…行きます!」









―――さあ、天にむかって思いを解き放とうか



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