君へ夢幻の感情を、 | ナノ


◎溢れた泪で海淵を描く

トキワに降りてグリーンの所に行ってから約2週間。僕は再びトキワジムに来ていた。関係者用の入り口を勝手に使い中に入り、この前と同じ部屋に入り浸る。ついでに近くにあった菓子やらなんやらを適当につまみ、グリーンの仕事が終わるのをまった。



外で休憩をしていたジムトレーナーさんによると今日は挑戦者が来ていたらしいのだ。しかも再戦の。女の子らしく、数年前、このジムのジムリーダーがまだ不在だったころに挑戦者しに来ていたらしい。
それでもバッヂを貰っているんだから態々再戦しにくるのだから、よっぽど戦ってみたかったか、暇人なのだろう。でも女の子で8つ目のジムまでくるなんて、なかなか珍しい。機会があったら是非とも戦ってみたいものだ。

そういえばリーフィア可愛かったな。あの和室で花の横に並んで笑っていた写真。耳に赤い小さなヒメヒオウギがついていた。あれは可愛い。あれはリーフィアが名前に使いたがる訳だ。まあ、ピカチュウには劣るが。てかグリーンくるの遅いな。さっさとすませてこいよボンジュール。








「おいレッド!!お前また関係者用の入り口を使っただろ!!」

「…ちっバレたか」

「そりゃ扉を開けっぱだから気づくだろ!!…ったく」

で、本日はどのようなご用件だ?と近くにあった椅子にどかっと座る。ん?なんかグリーン機嫌悪い?うげえめんどくさ。

「交換日記の相手の情報聞きにきた」

「この前のやつか」

「そう。で、なんか分かった?」

「…あぁ、一応分かったが…」

「教えろ」

「こっち言葉濁したのに即答かよ!?」

そりゃ情報が入ったなら聞きたいじゃないか。そんなことも分かんなくなったのかグリーンは。そんな意味をぎゅうぎゅうに詰め込んだ哀れみの目線をグリーンは軽く流すとはいはいはなしゃいいんだろと椅子に座り直した。

「えっとな、二年前にあった出来事は大きなものだとホッポの異常なまでの増殖とタマムシデパートでの強盗事件、あとはハナダの岬での心中未遂事件ぐらいしかなかった」

「え、なにその最後の。大事になったの?」

「心中未遂か?それはだな、ハナダに住んでた女に恋人がいたんだがその女が二股かけたらしくて、その男共二人が二股に気付いたら何故だか知らんがハナダの住民巻き込んで岬で死んでやる、っていったどうでもいい話だ」

「なんでそれで大事なの」


意味が分からない、という風にため息をもらせばこっちが折角集めてきてやったのにその態度かよと嘆きながらも説明するそぶりをみせた。流石グリーン。いつか嫁に尻に敷かれるな。


「なんか、最終的には女は実はジムを巡っていた旅人だったらしく、別に男共二人とは恋人関係になかったと。しかも両方その女のストーカーをしてて、ポケセンに忍び込んで下着を強奪してたらしく下着泥棒でジュンサーさんにつれてかれたんだとさ」

「…ださっ。てか滅茶苦茶迷惑な話だな」

「だろ?だからなんかテレビとかでもやったらしいぞ」

「へぇ…それだけ?」

「大きいのは、な。小さいのもあるが」

「聞く」

「即答だなおい。」

流石にさっきの出来事の事を指していたのではないだろう。リーフィアだし。ならば小さい方が当たってるのかも知れない。それに違かったとしても、またそれ以外の情報を集めてきてもらえばいいことだ。


「あーっと、たしかその年に8つジムバッチ集めたのにリーグに出なかった女がいたんだと。」

「へえ。で?」

「でって言われても特に続きはないんだが…」


ないのにこの話出したのかよ、と突っ込みたくなったがギリギリで押さえる。機嫌の悪いときにこういうことを言えばキレられるか帰れと言われてしまう。


「そういえばなんかカントーのポケモンではないやつを使ってたんだと」

「…?なんのやつ?」

「なんだっけか…っあーっと」


頭をかきながら思い出そうとしてるグリーン。思い出さなきゃシバくぞごらあ。流石にやらないが。でもなんのポケモンだろうか。カントーでなければジョウトだろうか。いや、ホウエンか。シンオウの可能性もある。二年前ならまだイッシュとの連絡船はなかったのでこれぐらいだろうか。


そんなこんなを考えていながら暫くたってもグリーンからの言葉はない。これ以上は無駄だと思い話を切りかえることにした。


「…そういえばさっきジム戦あったって聞いたけど」

「リーフィアっ!!!!!!」

「…え」

「そうだ!リーフィアだ!!たしか。」


あのイーブイの進化形の草タイプのやつだ、と自信満々にいうグリーンは思い出せてすっきりしたって顔だった。でもリーフィアって…


「さっきジム戦にきた女が使ってたんだよ。」


お前、ちょうどいいタイミングでいったな、とけらけら笑いながら肩を叩く酔っぱらいおじさんテンションのグリーンの手を弾き返した。

「ったくいってぇな。なんだよ」

「そのリーフィアってさ、耳に何か着けてた?」

「赤い花がついてたと思うが…」

それがどうしたんだ、というグリーンの言葉を片隅にリュックの中を漁る。目的の物を見つけると、いまだに頭にはてなを浮かべるグリーンにこないだ返ってきたばっかりの交換日記を差し出した。

「これ見て」

「あぁ?っておい、これって…」


ピカチュウさんへ

返事ありがとう!友達の力を借りて、少しだけピカチュウの名前に近づいたよ。もうちょい頑張ってみるね!あ、そうだ。ピカチュウの写真可愛かったよ!!でもうちのリーフィアだって可愛いからね!!ってことで写真添付しときます。

リーフィア



「…まさか」

写真をみたグリーンが思わず口からもらす。でもしょうがない。あんなに必死で情報を集めてた彼女が、ついさっきまでグリーンといたのだから。

「多分、さっきジム戦に来て女の子が、リーフィア」

「マジかよ…」

やられた!!と心底悔しそうに頭をかくグリーン。20秒ぐらいずっと強い力でガリガリやってる。どんだけ悔しかったんだよ。てか禿げるぞ

「あ、そうだ。その子なんか聞いてきた?」

「おう。だけど石碑みたらそのまま帰ってったぞ」

「石碑?」

そう問いかければ、ジムにかった奴等の名前が彫ってあるやつだ、と簡潔に答えた。


そりゃ8つ目のジムまでくる人は少ないかも知れないが、自分の名前だけを的確に当てるなんていう芸当をどうやってしたのだろうか。そう思ったが少し考えれば出来ないこともないことが判明した。グリーンと僕のおっかけっこのようなジムの攻略はグリーンと僕がリーグ優勝後に放送された特集で流れていた。それに詳しい人ならばグリーンのすぐあとにある名前が僕だと気づけるはずだ。

つまり、リーフィアはもう僕の名前を知ったのか。やられた。


「グリーン」

「あ?なんだ?」

もしかしたら、という期待をこめ、一呼吸おいてから問いかける。そうしないと緊張と期待が漏れ出てしまいそうだった。

「挑戦者の名前は」

「…名前は」











――――――時が止まった気がした。



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