君へ夢幻の感情を、 | ナノ


◎雪月花から君へ行進

永遠の色なるトキワシティ。マサラタウンを北上したところにあるそこには、豊かな自然と朗らかな人々、そしてポケモンリーグを目指す者たちの最大の難所である七番目のジムが待ち受けていた。

ノートを出す以外に僕には特にめぼしいものもないこの町に今回、態々降りてきた理由はほかでもない、そのノートのことだった。

適当にジムの扉を開け、グリーンのいる部屋を目指す。たまに来ているから迷子にはならないはずだ…たぶん。いや、きっと大丈夫だ、そうに違いない。その気のなれば奇跡だって起こせるはずなんだ!…って、テレビの見すぎか。見てないけど。




「…グリーン」

「ん?…ってレッドじゃねーか!いきなりだな!…ったく、降りて来いって言ったときには降りてこないくせに」

多少ぶつくさ言いながらも今回はどうしたんだ?と続けるグリーン。うん。この数年でだいぶいい人間になったようだ。前のグリーンならひたすら文句をぶつぶつと垂れ流していたことだろう。


…そういえば関係者用の入り口を無断で使ったことのお咎めをくらってないや。いつもなら何かと厳しいグリーンにしては珍しい。まぁ、気づかれていないのならばそれに越したことはないのだが。…とりあえず本題に入ろうと思い例のノートを懐から取り出し、グリーンの前に。

「ああ、これが例のノートか。」

「うん。」

女の子らしい丸っこい、なおかつ綺麗な字が綴られている一番新しいページをグリーンに見えるように差し出す。そこには先日帰ってきたばかりの新たな文が記されていた。


ピカチュウさんへ

返事ありがとう。じゃあこれからはこんな感じでやるね!えっと、ピカチュウさんの名前は全力で探させていただきます!…で、どうせなら私の名前も当ててみて!一人だけ探さなきゃいけないなんて不平等だしね。うーんと、私の名前のヒントは…特にないんだけど、しいて言うなら1、2か月前?あとは…わかんなかったら聞いてね。ではでは、がんばってください!

リーフィア


読み終えたらしく、グリーンはノートをパタンと閉じると何事もなかったかのようにで、これがどうしたんだ?と心底僕がなぜここに来たのかわからないというような顔で問いかけてきた。…くそ、モテ男が。なぜことの重大さがわからないんだろうか。

この野郎、この間までボンジュールとかこの世界で俺がいちばn…だとかこっぱずかしいことばかり言ってたくせに。あれか、ジムリーダーになったらモテたのか。…あれか、金か。やっぱ金か。なんだよ僕だってちょっとはあるぞ。ゴールドからふんどりとったやつとかグリーンから巻き上げた金とか。あと、えっと…って落ち着け。深呼吸だ。…危ない。頭が痛い人間になるところだった。


とりあえず冷静になることにしよう。よし、双子葉。…じゃなかった、そうしよう。まずはあれか、相談すべきてんをあげるべきか。東京によしいくぞう。

「…で、さっきから一人で百面相してるけどなにがしたいんだ」

用がないなら仕事を片づけるぞと立とうとしたグリーンの弁慶の泣所を全力で蹴り、その場に留めることに成功させる。いま仕事に戻られたら面倒だ。

「ってえな!!ったく!なにがしてぇんだよ!!」

「…1、2か月前に何かあったの」

「…はぁ?え、なにお前。それが聞きたいだけだったの?」

うん、と素直に答えればそれぐらい自分で調べろというお言葉を頂戴した。でもそんなこといわれてもシロガネ山では情報も何も入ってこないし、ネットが通じるかどうかすら怪しいのだ。

そんななかで自分の必要としている情報を手に入れるなど、普段から機会に接していない僕にとっては至難の技である。むしろ無理だ。このままじゃリーフィアの名前を知ることはできない。だから仕方なくグリーンに頼みに来たのだ。だから僕にとってはそんなことではなかったりするのだ。

「ってことで、頼んだグリーン」

「ってことでっでなんでだよ!?お願いだから日本語で話してくれ!!」

「…かくかくしかじか」

「ああ、鹿食うあれな。分かった分かった。」

「え、分かったの。エスパー?…きもっ」

「なんでありもしないことで罵声浴びなきゃなんねえんだよ!?」

はぁ、とため息をつきながらまあしょうがねえから調べといてやるよ、と多少呆れ顔だが承諾してくれたグリーンに心の中で合掌しておく。決して口には出さないかんな。



「…で、言いそびれてたが関係者用の入り口を無断でつかうなよ」

「(ばれてたし…)」


――――何に必死になっていたんだろう。普通なんて、特別なんて、とっくの昔に諦めていたはずなのに。



戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -