修羅が如く君を墜とす

地面に足をつけた。まだ空を飛んだふわふわとした感覚が残っていた。近くにいた移動サービスの業者に乗せてもらいヒウンまで来たのだ。空を飛んだ時に落ちればよかっただなんて考えたが、業者に迷惑をかけたくなかったので止めておいた。


ポケモンセンターで休み、夜を待った。夜になれば人が少なくなると思ったからだ。あたりが真っ暗になれば予想どおり、昼間よりは人が少なくなっていた。包帯をとり、海への道を歩いた。





今頃トウヤくんはどうしてるかなぁ。心配してくれてる?…そんなわけないか。きっとトウコちゃんとバトルサブウェイにいってるか、アデクさんとやらに呼び出されてるか泣きながら寝てるだろうなぁ…。ああ見えて、トウヤくんは昔っから泣き虫だもん。

始めて私のリスカを見たときも泣いてたし、トウコちゃんに私がちょっと押されたぐらいで泣いてたし、私が親に怒られたときも泣いていたもの。他人の傷にとても敏感なトウヤくんは逆に傷つきやすいんだろうな。そんなトウヤくんの迷惑になるなんてぜったいに嫌だ。これが私の決めた答え。


海が見えた。波の音が辺り一帯に響き、ほんのすこしだけ無常感が芽生えた気がした。小さく深呼吸をしたあと、階段を下り海へ一歩ずつ足を踏み入れた。

冷たい感覚が足を包む。足を進めるごとに濡れていく足は今の私の感情を表しているようだった。足首、膝、腰とどんどん青い水へ進んでいく。リスカのあとはまだ治っていないので海水に浸かる度に激痛がはしった。

でもどうせ死んだらもう分からなくなるんだしいいや。歩くのももう疲れたので力を抜きさっさと沈もうと思い力仕事抜いた。目の前まで水面が近づいてきた。もうすぐ死ねるんだ。なんだか嬉し涙が出てきそう。

これが、最期。







あともう少し、というところで誰かに左腕を掴まれた。鼻先寸前まできていた海水から顔をあげ、腕を掴んだ人を見上げた。そこには凄く怒った顔をしたトウヤくんが、


「…俺、安静にしてろって言ったよな」

「…なんで、いるの」

「リリアが逃げたから」

「…じゃあ放してよ」

「なんで」

「死ぬから」

そういえばあからさまに顔を歪めたトウヤくん。そんな顔はさせたくないのに、見たくないのに。そんな私の考えを察してか、腕を掴む力は弱くなった。



傷口にあたる風が痛いほど冷たい。また、死ねないんだ。そう思えば思うほど体が重くなっていく。その重みに耐えられず、私の膝は折れた。




ガクンと傾く体に沈む思考。その全ては冷たい海の中に落ちていった。目を閉じて、波の揺れを感じる。息を吸えば海水を飲み込んじゃって苦しかったけど、死ねないと思ってたから死ねるぶん、それぐらいは耐えることができた。



飛ぶ意識のなか無理矢理目を開け、トウヤくんを見た。泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしている。ごめんね、掴めないんだ。だから君は私を忘れていってよ。必要とする誰かのために私は消えるから。君の鎖になりたくないから。




そんな私にだいっきらい、そう呟けば、意識は蒼に染まっていった。










君の分まで沈むから