慈しみを殺戮。

死ねなかった。目が覚めてしまった。私の涙を流した左腕はご丁寧に包帯が巻いてあった。あぁ、切り方を失敗した。たしか縦に切ったほうが良かったんだっけ…。今包帯をとって切ろうとすると死ねない気がするので止めておく。



ここは何処だろう、なんて考えなくても私がいる場所は分かった。この部屋は、トウヤ君の部屋だ。清潔間が漂うこの部屋を何度見たことか。駄目だ。この部屋に私はいてはいけないのだ。こんな欲にまみれた私がいたら汚してしまう。

早く、出ていかなきゃ。早く、死ななきゃ。その衝動が私を彼のベッドから起こす。貧血なため、頭は酷く重い。立とうとしたそのとき、この部屋の扉が開く音がした。

「リリア!!目が覚めたんだな!!」

「…なんで、死なせてくれなかったの」

「お前が死ななきゃいけない理由なんて、ないからだ」

「意味、分かんないよ…」

私は君のために死のうとしたのに。なんで死ななきゃいけない理由なんてないって言い切れるの?なにが悪かったの?そんな思いを口にすればトウヤ君を困らせてしまう気がしたのでのみ込んだ。

でもトウヤ君のためにも私は死ななきゃいけないんだ。だってそうしなければトウヤ君はまた戻ってきてしまう。ミジュマルと共に旅に出て、トウコちゃんと一緒に戦って、チェレン君とライバルになって、ベルちゃんの夢を知ったトウヤ君。だから私は彼をこんな場所に繋ぎ止めちゃいけないんだ。だから、死ななきゃ。

「とりあえず、2、3日は絶対安静な」

「嫌だよ…私は、死ななきゃ」

「…なんで」

「その理由は、トウヤ君には永遠に分からないよ」

「なんだよ、それ…」

「大丈夫。トウヤ君には迷惑かけないようにして死ぬから」

誰にでも必要な存在になった君には私の気持ちは分からないんだよ。心の中で自分のことを嘲笑い、血液が足りない体を無理矢理動かし、立つ。その言動か行動に驚き固まったと思われるトウヤ君の横を通りすぎて扉を開けた。

「じゃあね、トウヤ君。さよなら」

何か言っていた気がしたが聞いてはいけない。そうしなければ私の覚悟か融けて消えてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。急いで階段を下りて外に出る。助けてもらったくせに非常識?そんなことない。だって私は死ねればそれでいいんだから。

とりあえず追い付かれるとまずいので早々にカノコから出る。何で逝こうか。リスカはもう飽きたので首吊りとか?あぁ、ライモンで飛び込みもいいなぁ。ヒウンで溺死もいいかも。そんなことを自然に考える私の目からは夢が零れおちていた。…今更死ぬのが怖い?この世界から私の存在がなくなるのか怖い?

「…ばっかみたい」

私はいつからこんな甘えたになったのだろう。彼のために死ぬって決めたのも、それを実行しようとしているのも私自身なのに。ぜんぶぜんぶ、私が勝手に決めたことなのに。…なーんて考えてても仕方がないか。そうしてまた私は歩きだした。



何処まで逝こうか、私と共に。