私は今何処に、
私には、親友のように親しかった友達がいました。
その子は数年前、不慮の事故により、この世を去りました。享年、18歳。
優しくて、強くて、ちょっと変なところもあったけどとてもいい子だったあの子。誰からも好かれという訳ではないけど、私にとって、大切な友達の一人でした。
「なんで、いなくなっちゃったんだろうね…」
線香の匂いが鼻をくすぐります。
毎年この時期は、彼女に会うために実家のほうに戻ります。もう私は大学のほうに行っているのであの子と過ごしたあの土地とはもう別の場所で暮らしているからです。
あの子はお菓子が、特に和菓子か、もう少しいえば羊羮が大好きでした。だから私はお土産として毎回羊羮を中心に和菓子を持っていきます。
もう、あの子のことはそれぐらいのことしか覚えていません。もう顔も、声も、どんなふうに私に話しかけたかも、どんなふうに私たちと関わり、過ごし、笑ったかも、何一つ覚えていないのです。
可笑しな話でしょう?私もそう感じています。たった数年で、まだ幼きころから共に育った友達を忘れてしまうものなのでしょうか。自分のことなのにまるでスクリーンを1つほど挟んだような、真っ白な霧が何かを隠すように、他人事のように思えたのです。
なんて私は薄情な人間なのでしょうか。罪悪感が私を苛めます。だから私は彼女に会いに来るのでしょうか。自分のことなのに、全く分かりません。
あの子は今、何処にいるのでしょうか。
仲良くしてくれたあの子。
私に優しく微笑んでくれたはずのあの子。
兄に愛され、ちょっぴり食い意地が張ってて、とても優しいはずのあの子。
何故あの子との記憶か薄れていくのか、私には欠片も分かりません。
だけどそれでも、もう一度あの子と会いたいと願うのか、私は今日もあの子の大好きだった羊羮をもってあの子に会いに来ています。
はろーはろー、もう私の手の届かないところにいるあなたへ。
あなたが今、少しでも私たちといたときよりも笑っていることを願って、またあなたに会いに来ています。
そして願わくはもう一度、一緒に過ごしてくれることを
「ふぇくしっ!!!!」
「…風邪?」
「んーそうなのかな?…でも」
「…?」
「なんかね、こう…懐かしい感じがしたんだ」
「…そう」
消えたのは記憶か、彼女か。