息が出来ないぐらいの
2日後、私たちはジムの前に来ていた。通り道にあった科学博物館は非常に、とても非常に気になったが今回の目的はそれではなかったのでスルーしてきた。それでも科学博物館をじと目で見ていた私に、レッドくんは呆れた目でみていたが。
「ニビシテイポケモンジム、リーダータケシ。強くて固い石の男。…おおう。」
前半片仮名ばっかりで読みにくいったらありゃしなかったが、ここのジムに限ったことではないので突っ込まないことにする。
てか強くて固い石の男ってどんなよ。あれかゴリゴリなのかそうなのか。服から筋肉の形が伺い知れるほどムキムキなんだな。そうかそうか。ゴリマッチョか。ヤバイぞパスカ。死亡フラグだぞパスカ。これは科学館に行くしかない。そうだ、エンジュにいこう。
「…ってことでレッドくん。私は一足先に科学館にいってくるね」
「…ちょっとまって。なにを考えたかは知らないけどパスカ可笑しな方向に行ってるよ」
本当に行こうとした私にヤバイと思ったのか科学館に向けて歩き出していた私の腕を掴んだレッドくん。なんだなんだ、レッドくんは私をゴリ男…いやゴリラの餌にしたいのか!そうなのか!見損なったぜ!!いや別にしないけど!!
「いや、だから別にゴリ男でもゴリラでもないし。だからそんなに逃げない慌てない」
「…本当に?マジで?」
「うん。」
「あああ良かったああ!!…ってなんで私がゴリ男とかゴリラとかいってたの知ってたの?…はっまさかテレパシー!?それともサイコメトリング!?」
「…口に出てた。それよりも、はい深呼吸」
吸ってー、吐いてーというレッドくんに流されつい無意識のうちに深呼吸をする。何度か繰り返すうちに大分落ち着いてきた。
「ふぅ。…ありがとう、レッドくん」
「…気にしないで」
それよりもさっさとジムに入るよ、諭してきたレッドくんのご厚意を無駄にしないためにも私は自動ドアの前に立った。
中は以外と広く、全体的にゴツゴツしている感じだった。ジムトレーナーさんは二人。そして真っ正面の一番奥に黒い影が1つ。…多分、その影がジムリーダーなのだろう。照明の辺り具合により、顔は見えない。
「ねね、レッドくん。ジムトレーナーさんって避けてっていいの?」
「うん。」
そし、そうと決まれば避けてしまおう。ということでジムトレーナーさんを余所に角をかくかくと曲がる。4つめほどの角を曲がると右側にはあの例の影の人が腕を組み、どどんと立っていた。
角を曲がり、その影の正面に立つ。がたいはよく、筋肉もある。ただ、下を向いているお陰で顔はちらりとも見えなかった。
「…あの、」
「よくきたな」
「…」
顔が上がる。茶色い髪に糸のように細い目。ずっと昔、あの世界で見ていた気がする懐かしいような顔が目に入った。
「ニビシテイポケモンジム、リーダータケシだ」
「あっマサラなのかカノコなのか分からないパスカです」
「…、では早速始めるとしよう。ジャッチは…久しいな。頼めるか?」
「…勿論」
両者、懐からモンスターボールを取りだし構える。数秒の間、私たちの間には静かで張りつめた沈黙が流れる。動くことも、息をするのも、瞬きをするのも許されることのない、緊張の中、
「始め」
ポケモンたちの勇気に満ちた叫び声だけが、広い室内に惜しみ無く響いた。